「ねえ竜崎、髪の毛切ろうか」







シャキ、と乾いた金属音を立てながら彼女が微笑んだ。


竜崎はその金属音に条件反射的に椅子を立った。

つられて、手錠でつながった月も立つことになる。


「ね、竜崎そろそろ切りたくない?」

「いいえ、切りたくないです」

「ほら、量増えてきたじゃない?」

「元からだからいいです」

「切ろう?」

「嫌です」




朗らかに微笑みながらシャキシャキと鋏を鳴らす彼女と、
冷静に返事をしながらも絶対に彼女と目を合わせない竜崎。


月が不思議に思い、竜崎に声をかける。


「竜崎、いいじゃないか切ってもらえば」

「何言ってるんですか月君! 駄目ですよ!」

「ほら、月君だって言ってるじゃない」

「嫌ですよ私は!」

「うふふふ、いいでしょ?」

「駄目です!」



一歩彼女が近づいてくるたびに一歩遠ざかる竜崎。

竜崎の嫌がり方が普通ではないと思うが、その理由が分からない。

プロではなくとも、少なくとも彼女は器用だし、まあ普通にはなるはずだである。

月が首をかしげていると、ワタリがそっと肩をたたいた。



「ああ ワタリさん、竜崎何であんなに・・・」

「口では申せません」

「・・・でもあの異常な嫌がり方は、」

「彼女は竜崎と仕事をし始めたころから、竜崎の髪を切りたがっていました」

「切らせてあげればいいじゃないですか」

「一回、切ったんですけどね・・・」

「けど、何ですか」

「・・・ここに写真があるので、それを見たほうが速いかと」

「写真? Lが写真なんかあっていいんです・・・・・・・・・・  ぶ?!!」



竜崎が近づいてくる彼女と鋏から逃げながら、突然吹き、むせている月を見る。

そして、月の手にある一枚の紙を見て目をさらに見開いた。



「ななななっ何見てるんですか!」

「い、いやっ・・・ こ、これは嫌だよな・・・っ!」

「ワタリ、何を見せて・・・っ!」

「いえ、分かってもらうには一番かと・・」


お腹を押さえながらこらえ笑う月に、竜崎は 一生の恥だ、と悔しそうにつぶやいた。


月はまだ息が荒いまま、彼女に言った。


「ま、まあ止めてあげたら いいんじゃないかな・・・」

「えー、月君までそんなこという・・・」

「嫌ですよ 私は絶対切りません」

「えー・・・   分かった、竜崎の髪の毛切るの諦めるよ」



残念そうに彼女が言うのを聞いて、竜崎はほっとしたのか、ソファに座り込んだ。

月もそのまま少し離れて座り、さっきみた写真を思い出して笑っていた。


不機嫌そうな竜崎は、ぶつぶつと何か言っていたが あれを見たからには気にならない。


しばらくからかえるネタが思わず手に入ったな、と月がこらえながら笑っていると シャキ、と金属音が後ろでした。


振り返ると、とても美しく微笑んだ彼女が立っていた、鋏を手に。




「じゃあ、月君の髪の毛切らせてもらうね?」






「え・・・・・・・・   ?」




月が固まっていると、竜崎が ご愁傷様です、と心から同情しているように言った。

彼女の右手から、また金属音が響いた。



最終兵器彼女の
(ぎゃあああああああああああああッ??!!)
(可愛そうに・・・ しばらくその頭で捜査ですね・・・)
(あー すっきりした!)
(竜崎、ちゃんと写真は撮っておきます)
(僕の髪がぁぁぁぁぁぁ!)(ご愁傷様です)









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・・・・・・・・・・あれ、これ誰夢?
竜崎、というか月といえば月? みたいな・・・