粧裕ちゃんの家に遊びに来たはいいものの、肝心の粧裕ちゃんがちょうど居ないらしい。

と、いうことを玄関を開けたお兄さんは教えてくれた。


「父さんに届け物を持っていっただけだから、後15分もすれば返ってくると思うけど」

「そうですか・・・ 分かりました、じゃあその辺で時間潰してからまた来ます」


そう言って頭を下げると、お兄さんは少し黙った後私を呼び止めた。


「どうせだし、返ってくるまで家で待ってるといいよ」

「はい?」

「上がっておくと良いよ、お茶くらい出すし」

「え、え、いいですよそんな!」

「いいよいいよ」


そう微笑んでお兄さんは玄関を開けた。

お言葉に甘えて、上がらせてもらうことにした。


「そういえば粧裕、今日友達と勉強会するって言ってたな、そう?」

お茶が入れられたカップを机に置きながら、お兄さんが聞いた。

私は頷いた。

お兄さんはそう、と微笑んで私の前の席に座った。

流石粧裕ちゃんのお兄さんだと思う。こうやって、お茶を飲んでいるだけで絵になる。


「えっと、その・・・お兄さん」

「ん? ああ、僕は月でいいよ」

「あの、月さん。 今まで勉強してました?」

「うん? ああ、提出課題をちょっとね。何で?」

「その、消しカスが服にちょっとついてたから・・・ あの、ごめんなさい」

「どうして?」

「勉強の邪魔しちゃって」


そう私が謝ると月さんは笑った。全然いいのに、と。

そうして何か思いついたように私を見た。


「勉強会に来たんだよね? じゃあ勉強道具持ってきてるよね」

「あ、はい。 宿題とか」

「僕が見てあげるよ」

「・・・っえ、いいいいいですよそんな!」

「どうして? 多分教えられると思うけど」

「そんな、迷惑ですから」


そう言うと月さんはまた笑った。

復習になるから僕にもちょうどいいから、と言って。


「まあいつも粧裕が言ってる友達と僕も仲良くなりたいしね」


私の隣の席に移動しながら月さんが言う。


「私のこと言ってるんですか、粧裕ちゃん」

「楽しそうにね、だから話してみたかったんだよ」


なんだか恥ずかしくなって、かばんを開けて教科書を取り出して気を紛らわしていると月さんは言った。


「いやでも、想像以上に可愛かったから驚いたよ」

「え、全然、そんな! 粧裕ちゃんのが可愛いです」

「粧裕が気に入るのも分かるよ」


月さんは笑った。

少し顔の温度が上がった気がして、少しうつむいてテストの範囲のページをめくる。


「あと数時間くらい粧裕が帰って来なかったらいいのにね」

「え な、何でですか?」

「君と一緒にいれるじゃないか」


私が教科書から顔を上げると月さんは微笑んだだけだった。

なんということだ。私はただ、友達の粧裕ちゃんの家でテスト勉強をしに来ただけだというのに。

ね、と微笑む隣の月さんのせいでここに来た趣旨も頭の中身もぐちゃぐちゃになってしまった。



こんなの不条理だ
++++++++++++++++++++++++ 久しぶり月。 何かこうもう・・・月がホストみたいな・・・