「休憩を下さい」


黙々とモニターを見ていた自分に、後ろから声がした。

振り返ると隣の部屋で書類を片付けてくれていた彼女が立っていた。


「・・・・ は」

「お願いします1時間でかまいませんから、休憩を下さい」

「・・・・・きゅうけい。」

「・・・・・忙しいのは分かってます、でも ・・・倒れそうです休憩を下さい」


そう疲れきった顔で彼女は頭を下げた。

いつも一生懸命な彼女にこうまで言われると渋ることもできない。


「分かりました、1時間しか許せませんが・・・どうぞゆっくりしてください」


そう言うと、ぱっと彼女は笑顔で顔を上げた。

ありがとうございます、そう言って嬉しそうに部屋を出て行った。

たまたまそのやりとりを見ていた松田が贔屓だとか言っているが気にしないことにした。

暫く時間がたって、ふと時計を見ると彼女に休憩を許してから50分近く経っていた。

そろそろ彼女も返ってくるだろう。そう思っていると後ろでドアが開いた。

振り返るとほこほこと湯気を纏った彼女がいた。


「・・・・湯気?」

「え、あ、お風呂借りてました」

「ああ、なるほど」

「もう一時間近くゆっくりお風呂はいるのが久しぶりで。最近シャワー多かったし・・・すごく癒されました」


髪を上げ上着を手に持ったまま彼女は自分の隣に座る。

ふんわり、風呂上りの匂いがした。


「こんなにいっぺんに見れるなんて・・・やっぱりすごいですね」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「すごいですよ」


そう言って彼女が近くなる。自分の前の前にあった菓子を取るためにだが。

いつも見えないうなじが目の前にきて、思わず目を背けてしまった。

そんなことには気づかないまま彼女は菓子を口に入れながらモニターを見ながら言った。


「そんなすごい上司の下で働けて光栄です」

「貴女の優秀な部下がいて光栄ですよ」


彼女は笑った。そうして私に振り向いた。

ありがとうございます竜崎、そう言った。

またふわり、匂いがした。


「でも私もまだまだ竜崎の部下として頑張らないと」

「十分頑張ってもらっていますが・・・」

「竜崎みたいな何事にも余裕で構えるようにならないと!」


そう言って彼女は立ち上がる。


「じゃあ休憩ありがとうございました、仕事再開してきますね」

「ああ、 よろしくお願いします」


彼女は最後にもう一度微笑んで、部屋を出て行った。

残り香が自分の隣で漂っていた。

思わず、モニターから目を外して目を閉じた。


余裕なんてないくせに
++++++++++++++++++++++++ お久しぶり竜崎。 普段見えないうなじは強いと思うのです。