もしこのこえがかれるまでないたら、あなたはわらってくれますか

























硝子が床ではじける音がした。



乾いた、音の高い、硝子特有の割れる音。

砕けたカップから、茶色いココアがカーペットに流れた。



「いま、 なん て? L」



カップを割った彼女の声。

流れてゆくココアを見ながら、もう一度私は言った。



「後二日で、この世界ともお別れです」



目を床のココアから上げると、予想通りな彼女の表情。

そして、



「なん、 で」



予想通りの反応。





「キラ事件終結のために。 もう決まってしまったことですから、後二日間 きっちり生きますよ」

「ウイル、スの事件が終わったばかりじゃない 」

「ええ、間に合って本当によかった」

「後、二日?」

「ええそうです、後 二日・・・いやもう一日半くらいでしょうか」



パソコンに送られてくる監視カメラの映像を見ながらそう言うと、それきり彼女は黙ってしまった。

目の前で増えてゆく犯罪を見ながら、近くにある菓子に手を伸ばす。

甘い砂糖が、口の中で溶ける。



「最後の最後、まで 捜査をするの、?」



溶けた砂糖が、のどを通ってゆく。



「ええ、そうしようと思っています」

「ワタリさんは、それを 」

「知っていましたよ。 ワタリの前でノートに名前を書きましたから」

「・・ワタリさん、すばらしい考えですねって 言ってた?」

「・・・・・・ いえ、それは  聞いてませんね」



砂糖の上を、甘いコーヒーが滑ってゆく。

ああまた、犯人を見つけた。



「でも、あと一日半ですが 出来るだけのことはやりたいと思ってますよ。 犯罪も減りませんし」



「私を呼んだのは、 どうして 」



少し声が震えて、聞こえた。





「さよならの挨拶、です。」



そう答えたらまた、彼女は黙った。

沈黙の中、流れるモニターを見ていると肩を叩かれ、L、と名前を呼ばれた。





「? なんです、  っ!?」



言い終わる前に、硝子とは違う乾いた音が部屋に響いた。

じわじわと自分の右頬が痛みの声を上げた。



目を潤ませ平手をかましたポーズのまま、彼女は私を見ていた。



「な、   んですか」

「なんですか、じゃないでしょう!」



珍しく声を荒くする彼女。

奥潤んだ目の奥が、ライトの光に淡く反射する。



「後二日なんでしょう、じゃあどうしてそんなことばかりしてるの!」

「そんなことと、言われましても。 私の仕事はこれで、」

「仕事なんかしなくたっていいでしょう! 馬鹿!」

「ば。 ・・仕事をして馬鹿といわれたのは初めてです」

「何度でも言ってやるわ、この仕事人間、馬鹿! どうしてもうすぐ最後だってわかってるのに、そんな 仕事ばっかりするのよ!」

「・・ そういわれましても」

「もっと、何処かへ行ってみるとか もっと、あ るでしょ・・・ !」



ぼろぼろと溜まった涙が、彼女の目から頬へ、床へ落ちてゆく。

立ち上がったまま、そのまま彼女は手で顔を覆って 声を上げずに泣いて。





「・・ 泣かないでください」



立ち上がって、頭に軽く触れる。

彼女は小さな声で える、そう言った。



「貴女は、ワタリと同じことを言うんですね」



覆う手を離し、彼女は私をきょとんとした目で見た。



「ワタリさん?」

「ええ、貴女と同じ事を」

「・・・え?」

「ワタリは、私との日々を日記につけていたんです。 最近知ったんですが」



ふわ、と彼女の髪に触れる。

やわらかい感触が、指に伝わる。



「ワタリも、最後は私がしたことのないことを一緒にしたい、させたいと書いていました」

「・・・・  」

「それはもうできませんが・・・・ 貴女にも同じ事を言われるとは思ってませんでした」



なぜか、ゆるく口元が上がった気がした。

それを見て、彼女は苦しそうに、言った。





「どうして笑うの、 L」





「・・   どうしてでしょう、今考えていたところなんですが」

「どうして笑えるの、どうして、 L 貴方は・・」





ぜんぶをじぶんでかいけつしようとするの、

そう彼女は言って また目を伏せた。



「もっと、悲しいとか 悔しいとか、やりきれないとか いっぱいあるでしょう?」

「  どうして貴女が、泣くんですか」

悲しいからに決まってるでしょ、彼女は呟く様な声で言った。

「悲しいとか、悔しいとか ですか」

「 ないの、L」



「悲しいです、嫌です、もっとこの世界で生きていたいです」



彼女が目を上げる。

また、口元が緩んだ気がした。



「どうも私は、悲しいと笑ってしまう癖があるようですね」

「 え、る」

「貴女ともう会えないのが、とても寂しいです。 本当に。」

「 L、」

「もっと、貴女にしてあげたいことがたくさんあった。 もっと、一緒に居たかったです」



そういうと、彼女の目からさっきよりも涙が溢れ出た。

頬をなでながら、私は笑う。



「ですからどうして、貴女が泣くんですか」

「Lが泣かないから、私が代わりに泣いてあげてるのよ」



少し裏返った声で、彼女は言った。



「Lが悲しいのに泣けないのなら、私が代わりに泣いてあげる。 だからいっぱい悲しんでいいよ、L」



そう言いながら、彼女は私を抱きしめた。





「L、」





そう言ったのが 聞こえた。



「私が泣いたら、 貴女は笑ってくれますか」

「 そうね、笑うかもね」

「そうですか。 ・・む、泣けませんね」



くすくすと、笑う彼女の声が聞こえた。



「泣いてませんよ、私」

「うんでも、    ・・・・・ L」

私から離れて、彼女は微笑んだ。





たとえあなたがいなくなっても、わすれないから あんしんして。





また私の、口元が上がった気がした。

ありがとうございます、そう言いながら。





あいしてる、  L、





彼女は、泣きながら微笑んだ。

私も微笑んだ。

唇を合わせて、また 微笑んだ。











あいしてます、 





そう言ったら、彼女はまた 泣いた。

Lのぶんだからね、そう言いながら。



「さよならは言いません、」

「うん さよならは聞かないよ」

「ずっとずっと、あいしてます」

「うん、知ってるよ 私もだから」



あなたにあえてかなしいとおもったことはないから、

そう言ったら彼女はうれしそうに笑った。



「私も悲しくなんかなかったよ、L 貴方に会えて本当によかった」





あいしてる、あいしてる、あいしてる。



何度でも言おう、何度でも。

彼女が笑ってくれるなら。



この声がかれるまで。







も し こ の こ え が か れ る ま で な い た ら 、 あ な た は わ ら っ て く れ ま す か
























END










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L映画ネタバレ。

んー、ていうか写真集ネタバレの方が割合多いかもしれないですね。



ずーっと最後の「ワタリ、この世界で生きてみたくなりました」の台詞のシーンが頭の中でくるくる回っていながら書きました。

ワタリさんの日記をLが見たかどうかは知れていませんが、知っていたら良いと白亜は思います。



見る方によってこの小説はシリアスだったり暗かったり切なかったりだと思いますが、なんにせよ、何か思ってもらえればいいなぁと思います。

名前を一度しか呼ばないのはわざとです。



なんかもうあとがきに書くことが見つからないので、感想をいただけたらうれしいなぁと それだけ、思ってても良いですか・・・!


+++++++++++++追記(3/18)+++++
「ワタリ、もう少しこの世界で生きてみたくなりました」でした・・・! 馬鹿!

ちまっと付け加えると ウイルス事件終結→このお話→ニアをワイミーズハウスに連れて行く っていう時間流れのつもりです。