ねえ、愛しい貴方。



もう何処にも行かないで 私を、独りぼっちにしないと 約束、し て。



















「ビヨンド! 帰ってきてたの?」

「ああ、久しぶり 



は持っていた手荷物はソファの上に放り投げ、数週間ぶりに見る彼に抱きつく。

ビヨンドは少し嬉しそうに笑いながら、抱きしめ返す。



「勝手に行かないでって、何度も言ったのに・・・」

「ごめん、でもほら ちゃんと帰ってきてるし」

「そうだけど、でも・・・」

は寂しがり、前から」



そう笑いながら、腕を緩め の頬を伝う涙をビヨンドは拭う。

はちょっと微笑んで、ビヨンドをソファに座らせた。



「何か飲み物入れてくるね」

「うん、」





ビヨンドは微笑んだまま、彼女の頭上に浮かぶ数字を見る。

もう何度も見、何度も計算した数字。



計算式は、とうの昔に分かった。







ふと、昔のことを思い出した。

















「ビヨンドは、私の寿命も見えてる?」

「・・・・・  うん」

「あとどれくらい、私生きていられる?」

「それ、聞く?」

「だって知りたい」

「・・・まあ、そのなんだ。 若くて綺麗なまま死ねる年齢、かな」

「ふうん、じゃあ そんなに長くないんだ」

「言わないほうが、よかった、か?」

「別に? 長生きしたくないし」



全然なんとも思ってないよ、とは微笑む。

そして今思いついたように口を開く。



「ビヨンドより、私は先に死ぬ? それとも、後?」



ビヨンドは首を軽くかしげる。

その質問には、答えたくても答えられない。



「自分の寿命は分からないから、なんともいえないな」

「ビヨンドより先が良いなぁ、独りぼっちに残されるのは嫌だもん」

「・・・自分はよくても、こっちは嫌だろ」



そう?、とは面白そうに笑う。



「その年齢って、変わったりするの?」

「寿命が減る増えるって?」

「そう」

「そうだな、殺されたりとか、そういうにのがあったら変動はするな」

「じゃあ、私が今ビヨンドが見えてる年齢よりも早く死んだら、殺されて ってことか」

「・・結構普通にエグいこと言うよな、って」



ビヨンドが低く笑いながらそういうと、は笑った。

ビヨンドは続けた。



「でもまあ、の寿命を短くしようとするやつがいたら ってかいたら、」

「?」



「俺がそいつの寿命そこで終わらせる」





は少し目を開いてから、くすくすと笑った。



「じゃあ、私は寿命が死に近い人と一緒にいちゃ駄目ね」

「どうして」

「私を殺したら、貴方が殺す。 その人の寿命はそこで決められているでしょう? じゃあその寿命はビヨンド、貴方が見えるじゃない」



ビヨンドは一間置いて、頷いた。



「だな、短いやつと一緒にいちゃ駄目だ」



は微笑んで、ビヨンドを抱きしめた。





「ずっと、私のそばに居て ビヨンド。 私が居なくなるまで」





ビヨンドは笑った。



「わかった」























彼女の終わりは、あと、       数年。



外を歩くたび、何千という寿命を見、複雑な気分になる。





「が、これも使いようがあるんだよなぁ・・・ くくっ」





そう呟いて、ビヨンドは口元を上げた。

















「それより、ビヨンド」

「うん?」

「髪型、変えたの?」

「ああ、ちょっと」

「変装でもするの?」

「目敏いな、その通りですよ」

「手の込んだことするのね」

「今回は、負けられないから」

「ふうん・・・?」





後ろの台所から、コーヒーの苦味のある香りが漂ってくる。

そうだ負けられない、とビヨンドは呟いて、くっ、と笑った。



そして、重い口を開いた。







「それで、に言いたいことがあって」



「なぁに?」

「出るとき、言えって言っただろ」

「だって勝手に出て行かれたら困るんだもん」

「だから、出て行く」

「結構長い間?」

「・・・結構、っていうか」



ていうかなに?、と背中で彼女の声を聞く。

ビヨンドは変えたばかりの髪を掻き揚げた。







「もう、帰ってこない」







「 ・・・え、今 なんて?」

「命を犠牲にしても───いや、それくらい犠牲にしないと───勝てない、絶対に。 だから、」

「・・・・・ビヨンド、 かえ、ってこない って?」



後ろから聞こえていたコップの乾いた音が ふと、途切れた。

小さく震えた彼女の声が、まだにわかにコーヒーの香りが残る部屋に響く。



「びよん、ど・・・・ 意味わかんな、い・・・ 」

「・・・だから、もうここには帰ってこな、」



「私を、また   独りにする、の・・・?」







泣いているのだろうか。

か細い声が、聞こえた。



「  ・・

「いや、いや、いや・・・! 私を独りにしないで、おいていかないで・・っ」

「これはでも本当に負けられないから、さ」

「約束したじゃない、ずっと、・・・・!」





かしゃん、台所で陶器が割れた音がした。



振り向けない、彼女の顔を見る自信が無い。

ビヨンドは小さく首を振った。





「悪いと思う、でも決めたんだ 負けない、このパズルに勝ってやる」

「私、を・・・っ、     いや、ビヨンド・・・!」

「・・・・

「行かないで、行かないで、私を、 独りに、」





「なんといわれても、行く。 帰らない。 ごめん、でも出て行く」







しん、と静まり返る部屋。

苦いコーヒーの香りに、流れたままの水道の音。



小さくすすり泣く彼女の声と、切ったばかりの髪のにおい。







少しして、すぐ後ろで かたん と音がした。





「何処にも行かないで、私と一緒に居て、一人にしないで、  ビヨンド」







振り向くと、彼女が立っていた。

手に持っているものが、窓からの夕日で怪しく反射している。



思わず、ソファから立ち上がろうとするが 足が動かない。

ゆっくり、彼女は近づく。







「ビヨンド、ずっと、 私と居てくれるって約束したじゃない」

、」

「私は貴方なしじゃ生きていけない、居る意味がなくなってしまう・・・」

「 、」

「ねえ、ビヨンド  だから」









ふんわりと。  彼女は美しく微笑んだ。



銀に光るものを振り上げて。



「私といつまでも一緒よ、ビヨンド」



そして、真横に銀の光を走らせた。











赤黒い視界で、冷たく微笑んだ表情(カオ)の向こうで、哀しむ彼女の顔が見え た。











「──・・あ、   して た、よ 











体の起動装置が体から離れる前、まだ視界が動いている中 彼女の頭上で揺れている数字がゆっくり増えていくのが目に入った。 





ああそうだったのか、 彼女の寿命を短くしていたのは、この自分 で、















意識をなくす瞬間、彼女の上の数字が   増、え     、







































「ビヨンド、ビヨンド、ビヨンド・・・・・ 」





銀の物が からら、と音を立てて床に転がる。

床に紅のカペーットが広がっていく。



ソファの背中にもたれかかる"部品"はそのまま、は銀の閃光が走ったと同時に飛び去った"本体"を探す。



そして、





「ああ、ビヨンド・・・」





生暖かい湖の中から、ころり、転がった"本体"を拾い上げる。



部品に興味は無い、欲しいのは本体だけ。



「ビヨンド、貴方を誰よりも愛してるわ」



ふわり、と髪を撫でながらは言う。





「もう寿命を見て苦い顔をするのも、私との喧嘩も、なにもかも気にしなくっていいのよ ずっと、ずっと一緒だもの」







苦いコーヒーと漂う鉄分の匂い。

広がっていく薔薇のような紅のカーペット。

ずるり、と力なくソファからずれ落ちる彼の"部品(カラダ)"。



そんな猟奇的(ドラマティック)な部屋の中。







は愛おしそうに、"本体(くび)"───彼を抱きしめた。













「おやすみなさい、愛しい人。」



───もう、何処にも行かないで(せない)

  永遠に、ずっと、

                     私の腕の 中。


























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・・・言うことはまずひとつ。



謝ります謝らせて下さい申し訳ございません・・!



こんな、ある意味年齢制限がかかりそうなものを公開していいものだろうか・・・。

いろいろなものに刺激を受けてますね、星屑とか宝石とか。



ぐろいってうかえぐいっていうか・・・ ごめんなさい。

「隠せよ!」とかお思いでしたら言ってください。



反応が恐すぎる。