「やっと捕まえましたよ さん」 口元を斜めに上げ、目の前の世界の名探偵は私に言った。 散々手こずらせてくれましたね、と微塵も思ってなさそうに探偵 Lは言う。 「灯台下暗し、とはよく言ったものですね。 まさか、私と一度依頼人として接触してくるとは」 「しばらく時間が稼げるにはいい方法だったと思ったのよ」 「ええ、まったくですよ。 そのせいで随分貴女による犯罪が増えました」 「もう少しで、終わるところだったのに」 ぽつりと本音をつぶやくと、Lは満足そうに言った。 「でも、私の勝ちです」 「・・・・ 私の負けよ」 悔しいが、認めるほかない。 正直逃げたら勝ち負けもないのだが、こうも密室で、監視カメラが回る中 手を拘束する手錠を解く自信は無い。 白い壁に白い天井。 クリーム色の絨毯に高そうな椅子に座る探偵。 探偵よりかは若干安そうな椅子に拘束された世界の犯罪組織の幹部。 軽くため息が漏れる。 これが負けた悔しさからのなのか、相手への賞賛の気持ちからなのかは分からないが。 「それで、本題に入るけど L」 腕を椅子の背に拘束されたまま、椅子の上で奇妙な座り方をする探偵に話しかける。 「私をどうするつもりなの?」 「・・・どうする、と言われましてもね 何をですか」 「私の行く道は決まってる、死ぬまで牢獄に入れられるか今死ぬかよ」 「 まあ、罪状からあげればそうでしょうね」 「貴方はどっちを私にさせるつもりなの?」 決めてません、とさらりとLは答えた。 それでは困る。 「もし、人としての権利で希望を言えるなら」 「何ですか」 「今、死ぬほうが私は望ましいのだけど」 Lは少ししてから そうですか、と言いながら少し爪を噛んだ。 表情が分かりづらいので、自分の希望が通るのか分からない。 噛むのを止めて Lは言った。 「なぜですか?」 「・・・女としてのエゴ、みたいなものよ。 牢獄で枯れ朽ち果てるより、今若くて綺麗なうちに死にたいっていう」 そういうものですか、とLは面白そうに言った。 帰り道で襲撃され捕まえられここに連れてこられてもう結構経っただろう。 そろそろ、繋がれている手首が痛い。 「L、私の希望は聞いてくれるのかしら」 「今考えています」 「 そう。 そろそろ手が痛いの、早くしてくれると嬉しいわ」 「分かりました」 そう言ったくせに、目の前の探偵は私を見据えたまま爪を噛むのを止めない。 少ししばらく私を見た後、Lは呟く様に言った。 「貴女の能力の高さは、もったいないですね」 「・・・ は」 「この私を手こずらせるほどですから、相当です」 「お、褒めの言葉感謝するわ」 「・・・さて、どうしたものか」 そして再び私を見据える。 何を映しているのか分からない目で 私を見据える。 ふと、いやなものが脳裏をよぎる。 「言わせてもらうけど、研究所に連れて行かれて解剖される なんて御免だから」 「一応、人としての人権は守りますよ」 そう言われたが、信じがたい。 Lは少し考えるように俯いてから椅子から立ち上がり私の目の前に立った。 「決めたの?」 「ええ、決めました」 「牢獄? それとも今?」 「いえ どちらでもないです」 「 まさか、解剖なんて───」 「違いますよ」 そう言って、私の顔を覗き込んだ。 「さん、貴女には私の傍にいてもらいます」 「・・・・・・・・・・・ は、?」 「その能力をフルに使って、私の捜査の手伝いをしてください」 「は、 え、何て?」 「言ったでしょう、貴女は惜しいんですよ」 そう言って世界の名探偵は小さく微笑んだ。 しかし、言ってることがいろいろ無理やりである。 「手伝うって・・・ 私が? 貴方の元で?」 「ええそうです」 「な、・・・」 「顔を見られていますし、貴女は電子器具も得意でしょう。 屋外でも屋内でも活躍してくれることでしょう」 「あの、貴方 私は犯罪者なのよ」 「ええそうですね」 「捕まる筈じゃないの?」 「ですから、償いに私の傍で犯罪を捜査していただきます」 天才には変な人が多いとは聞くが、こいつは正真正銘の変人ではないか。 「貴方、何言ってるの? そんなの、私が途中で逃げたり貴方をもしかしたら殺そうとするかもしれないわよ」 そういうと、Lは得意そうに口元を上げた。 「貴女はそんなことはしません」 「なんでそんなことが言えるのよ」 「よく考えてください、私を殺したって貴女には何もメリットは無いというのはあなた自身が一番分かっているはずでしょう。 仮に殺して逃げたとしても、私が死ねばすぐに次のLがあなたを突き止めるでしょう。 そうすれば、牢獄で朽ち果てたり、解剖されるよりももっと酷い事を受けるのは分かるでしょう。 貴女はそんな無駄なことをする人ではないと思いますが?」 やけにハッキリと、キッパリと言われたので反論もできない。 しかも、言ってる言葉がまったくその通りなので 「・・・・・・・・・・・ わかった、わ」 そう言わざるを得なかった。 Lは助かります、と言った。 「でも、探偵が犯罪者を雇うなんて初めて聞いたわ」 手錠をはずされた手をさすりながら、改めて呟きが漏れる。 「まあ、そんなのただの建前ってやつですけどね」 さっそくモニターの前で座り込んでいるLが言った。 「建前?」 「ええ、そうですよ」 「本音は何よ」 軽く振り返って、Lは言った。 「ただ私がさんに傍にいて欲しかっただけです」 思わず、口が間抜けにも開く。 「・・・は? 何言ってるの」 「拘束して話しているときにずっと考えていたのですが、私はどうも貴女が好きなようなので」 「え、考えてたの?」 「ええ、考えてました」 じゃあこいつは、私の行く末ではなくずっと自分の気持ちを考えて────? 「あ・・・ 貴方馬鹿じゃないの」 「馬鹿と言われたのは初めてですね」 「好きって、 貴方自分の立場分かってるの?」 飴玉を含みながら、Lは少し首をかしげる。 今気づいたのだが いつの間にか自分はソファから立ち上がっていた。 冷静を失っていたようだ。 仕方ない。 「貴方は犯罪者を捕まえる 探偵なのよ? それが、犯罪者を好きになるなんて 冗談も程々に・・・」 「私は冗談とか嫌いです」 本当ですよ、と目の前の名探偵はこちらを振り返ったまま言った。 「・・・あのLが犯罪者を好意で命を長引かせてしかも傍においてるなんて知れたら、世界はひっくり返るでしょうね」 「かもしれません」 あまりにさらっと返されたので力が抜け、ソファに再び沈む。 訳の分からない天才及び変人に好意を持たれ命は助かったものの。 私は、とてつもない失敗をしたのではないか。 「犯罪者を好きになるなんて、L 貴方が一番悪いかもしれないわね」 ため息混じりにそういうと、もう一度振り返って Lは言った。 それはまた、さらりと。 「貴女を好きになったのが罪なら、私はどんな罰でも被りますよ」 罪と罰 (その笑顔に不覚にもときめいてしまったなんて、言えない) END ++++++++++++++++++++++++ 涙さまへささげますえるる。 もうなんか掴みどころの無いえるるで本気で申し訳がありません。 ていうかこれジャンル何で分けたら良いのかまったく分かりません。 砂糖超微量とかではどうでしょう。 それでも駄目っぽい。 このたびは相互本当にありがとうございました! 白亜 |