ガシャン、と音を立ててグミが盛られた皿が床に跳ねる。 隣にいた松田が竜崎がお菓子を無駄にするなんて、と驚きの声を上げる。 そんな声には耳もくれず、竜崎は 自分がいつも座っているソファを見つめていた。 いつも竜崎が座っているソファには、優雅に紅茶を愉しんでいる女性がひとり。 「久しぶり、L。 今は、竜崎って名前なんだって?」 そう言って、微笑んだ。 あ な た の こ え で 「竜崎の何なんですか、彼女は?」 隣の部屋で待っていてほしい、と竜崎に言われ隣の部屋に移動した女性を見ながら 松田が言った。 「私の何といわれましても・・・・」 「彼女さんとか、奥さんとか?」 「馬鹿。」 お前の頭は思春期の中学生か、と相沢に一喝される松田の質問には正確な答えを出せないまま 竜崎は隣の部屋を見た。 そんな竜崎の様子を見て、松田はますますさっきの話を続けようとし、相沢はまた松田に一喝した。 「彼女は 私の───部下であって、良い人 ですよ」 竜崎は最初自分で何を言ったのか分かっていないようだった。 自分でそう言ってから一瞬して、自分が言ったことに自分自身驚いているようだった。 そんな竜崎を見て松田は面白そうににんまりと笑う。 「部下で良い人、だなんてやだなぁ竜崎。恋人なんでしょう?それか奥さん」 「松田、だからお前は・・・」 「だって相沢さんも見たでしょ聞いたでしょ、今の? あれは確実に恋をしている言い方──、」 松田が相沢にご丁寧な説明をし始めると同時に竜崎は立ち上がり 彼女を待たせているドアの前に立って2人に振り返った。 「暫く、彼女と話をします。お二人はゆっくりそこでくつろいでいてください」 松田がはーい、と気の抜けた返事をし 相沢は小さく分かったと言って頷いた。 「もうこっちにきて大丈夫なの、竜崎?」 用意された菓子を啄ばんでいた女性は、部屋に入ってきた竜崎を見て言った。 「大丈夫です。 それより、」 竜崎は、と呼んだ女性の隣に座り自分も菓子に手を伸ばす。 「どうして、 此処に」 は笑った。 「どうしてって、なんとなく」 「・・・ふざけてるんですか」 「全然。りっぱな意味だと思うんだけど」 「以前にも何度か言ったように、会うのは私から出ないと私だけでなく貴女にも危害が及ぶ可能性が、」 「聞いたわ、何度も。 でも、竜崎、私は 貴方に」 それ以上の言葉は急に開いたドアの音に吃驚して言わなかった。 紅茶のカップを持ってきたワタリが、2人の様子を見て頭を軽く下げた。 「すみません、お邪魔してしまったようで・・・」 「いえ、大丈夫ですワタリさん」 頭を下げたワタリに手を振りながらが微笑む。 カップを置きながらワタリは少し懐かしそうにを見て 微笑んだ。 「お久しぶりですね、さん。 お元気そうで何より」 「ワタリさんも。 お元気そう」 そう言われてワタリはもう一度微笑んで、頭を下げて部屋を出て行った。 ワタリが淹れてくれた紅茶を一口飲んで、が少し幸せそうにため息を漏らした。 「やっぱり、ワタリさんの紅茶は絶品ね」 そう言って、渡りが閉めて行ったドアを見やって、元気そうでよかった と呟いた。 竜崎はふっと微笑むを見て 少し苦しそうな顔をして、目を伏せた。 そして、口を開いた。 「貴女を危険にはさらさせたくないと、いつも言っているんですが」 「聞いてるわ。 でも、来ないと話もできないでしょ?」 「・・・・・・・・それは、」 「そうでしょう?」 カップをテーブルの上に置いて、は小さく鼻を鳴らした。 少し不機嫌そうに、ソファに沈み込んだを見て竜崎はますます、苦い顔をした。 貴方はいつもそうなんだから、と小さな愚痴も聞こえた。 「世界でお忙しい『L』、今は竜崎さん、はお仕事が忙しいのが幸せみたいですから」 皮肉たっぷりにそう言われ、何もいえないまま竜崎は黙り込む。 そんなことないと言いたいのだが、彼女の言うとお竜崎はいろいろと理由をつけていつも彼女に会う約束を先延ばし先延ばしにしていたから反論できない。 は相変わらず不満そうなまま、テーブルに並べられたお菓子を少しずつつまんでいた。 「仮にも『彼女』を放っておいて平気なんて信じられないわ」 「・・・放っているつもりは」 「そう? でも、竜崎。 私が今浮気してても、貴方はわからない位会ってないのよ?」 竜崎が目を丸くしてを見る。 は竜崎をちょっと見ただけだった。 「浮気、 したんですか?」 「さあ?」 「・・・・・・・・・・・」 黙って俯いた竜崎を見て、は少し満足そうに微笑んだ。 あんまりに会ってくれなかったため、少しからかってやろうと思ったのだ。 「つまり、 ・・・・は私に文句を言いに来た訳ですか」 ぽつり、竜崎がこぼすように言った。 は肩をすくめた。 「間違ってはいないけど、別にただそれだけっていう訳でもな、」 「よく分かりました。は私に不満を抱いているんですね?」 「え、 ちょっと、竜崎?」 急に強気になった竜崎のほうをが見る。 竜崎は少し、口元上げてを見ていた。 「不愉快な思いをさせて申し訳ありませんでした」 「え・・うん、 りゅうざ、き?」 「それに付け足すと、私はこれからもあまり貴女には会えないでしょう」 「そ、そうかもしれないけど・・・ あの、急にどうしたの・・・?」 「じゃあ、会うのは今日これっきりにしたら良いでしょう?」 え、とが驚いて固まるを前に竜崎は微笑したままソファから立ち上がる。 「そうすればもう不満もたまらないでしょう?」 「り、竜崎 ?」 「じゃあ会うのはこれっきりにしましょう。 貴女がそう言うのなら」 「そ、んなこと・・・」 「違いますか?」 「・・・、 でも私は会いたくないなんて一言も・・・」 「でも今の状況では不満なんでしょう? 私はきっと、今以上のことなんてできません」 「え・・・怒ったの、竜崎?」 「いいえ?」 そう言って微笑む竜崎を見ては怒ってるじゃないと呟いた。 しかし竜崎はそれを無視してドアの方へ歩みだす。 それを見て、慌ててもソファから立ち上がる。 「ま、待って! 違うの、そんな。 浮気なんてする訳ないでしょう?」 「でも、文句を言いにきたんでしょう? 彼氏失格だ、と?」 「りゅうざ、」 「これっきりですね」 そう言ってドアノブを握った竜崎の服の裾をが引っ張って止める。 少し震えた声で、は俯いたまま言った。 「違う、違うの・・・そんな、ことしてないし思ってない・・・」 「じゃあ、なにをしに、言いに来たんですか?」 ドアノブから手を離しながら、竜崎は言った。 「私は、 ただ・・・」 「ただ?」 「た、・・・ただ・・・・・・竜崎は、平気そうだったからなんだか悔しくて」 「何がですか」 「私は、会えなくて寂しいのに竜崎は平気、そう ・・・だったから」 「・・・・私をからかいに?」 「ち、違う!・・・少しそれも、あるけど・・・。」 じゃあ何ですか、という竜崎には顔を上げて困った顔をした。 少し潤んだ目を竜崎から少しそらして、小さな声で言った。 「あ、 ・・・あいたかった、の ・・」 竜崎は、ふ と笑った。 がきょとんとその笑顔を見ていると、竜崎は言った。 「最初から、素直にそう言えば良いのに。 貴女は素直じゃないですね」 「だ、だって !」 体は抱き寄せたまま唇を離して、竜崎は言った。 「寂しい思いをさせて、すいませんでした」 「・・・うん」 「私だって寂しかったですよ?」 「嘘。 全然平気そうだった」 「そういう風に見られないようにしたくなるのが男心ですよ」 「からかいたくなるのも女心よ」 そう言ってが笑うと、竜崎も微笑む。 竜崎がの額に唇を落とすと、くすぐったそうにが笑った。 「竜崎、」 「竜崎じゃないです、私は」 「え?」 「知っているのでしょう?」 竜崎がそう微笑むと、一間置いて、は笑って背伸びして竜崎の耳に囁いた。 あ な た の こ え で 、 わ た し の ほ ん と う の な ま え を ( よ ん で ) 「───エル・ローライト、さん」 竜崎はそういわれて微笑んで、の耳に囁いた。 そ し て 、 わ た し の こ え で あ な た へ ( さ さ や い て ) 「愛してます」 END ++++++++++++++++++++++++ えるる短編お久しぶり・・・! 甘くしようと思ったのになんだかもう・・・。 あれ甘いのかなこれ。あれっ最近本気で甘いの書けてる自身なくなってきちゃった。 エルの本名ネタはしたかったんです長い間。(まだしてなかったはず 最後のタイトルがしたいがために突っ走ったお話。 若干昔のネタをリメイク・・・? |