｢ねえ､人の話し聞いてる？｣

｢え？　悪いけど聞いてない｣


ガリガリと羽ペンを走らせながら､吐き捨てるように言う｡

顔を上げてみていないから分からないが､多分リーマスはすねた表情をしているのだろう｡


悪いことしたな､と思いつつも顔を上げない｡


それよりも大事なのだ、こっちが。




｢宿題と僕、そっちのほうが大事なんだ｣

｢ああうんごめんね｣

｢人に謝るときはさ､ちゃんとその人見るんだよ｣

｢後で見る。　ごめんね｣



リーマスが黙ったので､きっと不機嫌な顔をしているだろう｡

後が怖い｡




｢後でお菓子買うから！　ねっ｣

｢当たり前じゃないか｣

｢････そうですね｣

｢一回ぐらい顔上げたらどうなの｣

｢一回上げる時間がもったいない｣



ガリガリとリーマスに借りたノートを書き写す｡

果たして後30分で､書き写し終わって提出できるだろうか｡



｢ノートとらずにいっつも寝てるからそうなるんだよ｣



若干､嫌味混じりな言葉が前の席から聞こえる｡

椅子を後ろ前逆にして座っているらしい｡



｢魔法史なんて寝る為にあるんだよ　きっと｣

｢それ君だけだよ｣

｢しっ･･･シリウスも寝てるじゃん｣

｢あいつは馬鹿だけど、この上ない馬鹿だけどノートだけは取ってるよ｣

｢･････　｣

｢君はあいつ以下、と･･･｣

｢あ、あいつの下だけはやだ･･･！｣

｢じゃあ一回ぐらい顔上げてノートを貸してくれた恩人にお礼言えば？｣

｢ありがとうございますこのご恩は一生忘れません尊敬してます後で深々とお辞儀します｣

｢･･･････｣



ほんのりと寒い空気、かなりの確立でこの前の席に座っている人物が出している気という名のオーラ、が怖い｡

後でどれぐらいのお菓子を捧げさせられるのか｡



しかしそんなことを思っている間に残り時間は20分をきっている｡


字がいつもより少し乱れつつ、ペンを走らせる｡

しばらく黙ってから､リーマスが暇そうにしゃべり始めた｡




｢見てるのって暇なんだよねえ｣

｢うん｣

｢字、ちょっと荒れてない？｣

｢うん｣

｢･･･もう"うん"しか言わない気でしょ｣

｢うん｣

｢話聞いてる？｣

｢うん｣

｢･･･シャツボタン開いてて見えそうって知ってる？｣

｢うん･･････　えっ嘘｣

｢嘘だけど｡　見えてたら言わないし｣

｢･･･変態｣

｢思春期だからね｡　ていうか話聞いてたんだ｣

｢うん｣

｢あーまた始まった｣

｢うん｣




ガリガリ、とペンの音だけが教室に響く｡

それにあわせて、リーマスの言葉と私の二文字の返答だけが混ざる｡



後3分､残りページ4枚､とぎりぎりなラストスパートを走っている間しばらく大人しかったリーマスがまた口を開く｡



｢適当に話すからまあ適当に返事してね｣

｢うん｣

｢あのさ、ずっと言おうか迷ってたんだけど｣

｢うん｣

｢･････やめとく｣

｢うん｣

｢ちょうど良いから、違う方法にするよ｣

｢うん｣



｢僕のこと好き？｣



｢うん　　　　　　　　･･･････へ？､今なんて？｣


初めて顔を上げると目の前には､満足そうに、そしてものすごく楽しそうなリーマスの笑顔があった｡

目を点にしている私を見てリーマスは　そう、ともう一度微笑んだ｡


｢え、　今　なん･････｣

｢あ、後1分だ｣

｢えっ　嘘！　ああああ間に合えー！時間よとまれ･･･！｣


さっきのことを無理やり忘れようとペンを走らせる｡

さっきより字が荒れていると自分で思う｡



もう顔を上げたくないと思ってしまう｡




｢ね、もう少し続けていい？｣

｢　うん｣

｢さっきの続きだけど　本当？｣

｢･･････　う、･･･｣

｢ど　っ　ち　？｣

｢ああああ後で言う！後で！今はやめてっ｣

｢あ　字歪んだ｣

｢リーマスの所為っ･･･　　　っ！？｣




再び思わず顔を上げる｡


にっこりと。

悪玉は微笑んでいた｡




囁かれた耳が、こそばゆくて　あつい。



放心している自分に、リーマスは満足そうに目を細めた｡



｢な、ん　の　嫌がらせですか･･･！｣

｢え？　無視された仕返し｡　でも本心だよ｣

｢･･･っ、　｣



答えに困っている自分の耳に、タイムリミット、と時計の時間を告げる音が届いた｡

彼は笑顔のまま「もうちょっとだったのにね、」と言った｡



悪魔の時間と悪魔の囁き
「僕も、好き」










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確信犯、というか愉快犯？　というか黒い？リーマスが書きたかったんです。