「 あ、れ リドル・・・?」 ドアを開ける前の自分の背中で、眠そうな彼女の声を聞く。 彼女には見えない様に、持っていた荷物をドアの近くに置く。 「ごめん、起こしたかい?」 心の底で動揺してるのが表情に出ないように微笑みながら、うとうとと体を起こした彼女に近づく。 彼女は眠そうに目をこすり、ゆっくり首を左右に振った。 「今、何時・・・?」 「まだ夜中」 「 そ、っか」 「うん、だからまだ寝てて良いよ」 「ん、 ・・・リドル、出掛けるの?」 「 なんで?」 眠そうな彼女の髪を撫でながらそう聞くと、彼女は わかんない、と答えた。 「なんとなく、そうかなって」 「ちょっと、外に出ようと思ってね」 「そっか」 「うん。 寝る?」 「うん、」 「おやすみ」 彼女はこく、と頷いて毛布にもぐる。 自然と笑みがこぼれてから、体の向きを変える。 足を一歩前に出したと同時に、服がつかまれたのを感じた。 振り返ると、毛布から顔と腕が出ていた。 「なに?」 「え、 ・・・なんでもない」 「なんでもないのに引っ張ったの?」 「リドルが どっかいっちゃいそう、だったから」 「・・なんで」 今僕は、平静を保てているだろうか。 もう一度わかんない、と呟いた彼女の髪をもう一度撫でる。 小さい子をあやす様に、彼女の額に唇を落とす。 「僕が君をおいていくわけが無いじゃないか」 「 う、ん」 「こんなに、好きなのに」 「そっか 」 そう言って彼女は嬉しそうに笑った。 そうして眠そうに片目をこすり、いってらっしゃい と言った。 「うん、いってきます」 「 あのね」 「うん?」 「もう一回、言ってくれる?」 「何を?」 「・・・・ すきって」 「いいけど、どうして?」 少し言うのをためらった彼女を見ながら、そう言うと彼女はもごもごと毛布の下で口を開いた。 「リドルにそういわれると、なんだか 安心、するから」 今僕は、ちゃんと 笑えているだろうか。 毛布から、少し恥ずかしそうな彼女の顔が出ている。 それを見ながら、僕は微笑んだ。 「そんなの、いくらでも言ってあげるよ」 「・・・・・ う、 ん」 彼女の頬に唇を落として、囁く。 彼女は少し照れくさそうに微笑んでから、いってらっしゃい と言った。 いってきます、と返して彼女が毛布の下に顔をうずめるのを見届ける。 物音を立てないように、さっき置いた荷物を静かに背負う。 小さな寝息が聞こえるドアのそばで、眠っている彼女を見る。 「・・・・・いってきます、ごめんね、 さよなら」 小さく、口が勝手に呟いた。 ごめんね、君は 連れて行けないんだ。 さよなら、弱い僕を許して 忘れて。 最後にそう小さく心の中で呟いてから、もう開くことのない部屋のドアを閉めた。 もう訪れることの無い部屋から立ち去るときに、さっき囁いた言葉が名残惜しそうに口から漏れた。 「あいしてる」 (君を愛しすぎて連れて行けない僕をどうか忘れて、許して ごめんね、 ずっと、ずっとあいしてる) ++++++++++++++++++++++++ リドル。 何よりも大事だから、連れて行かない。 そういうのが書きたかった、とあとがきに書いてありました(書けてるのか)。 「切なくて好き」という素敵な感想を頂きました。感激・・・!