海は空に恋をして、




「わー綺麗!広い!貸切!」

「一応プライベートビーチだからな。まあ、気にせず楽しめ・・・・・・ って人の話を聞け!!」



俺が後ろで叫んでも気にせずあいつは嬉しそうに上着を脱ぎ捨てる。

そんな仕草に男としてはどきどきするのだが、まったく気づく余裕もない、というかムードも何もないあいつは海へと走ってく。

この海水浴日和にこんな綺麗な海がガラガラなのは、さっきいってた通り、ここは名家ブラックのプライベートビーチだからである。

本当は家の敷地が嫌だったが、あいつが二人で海に行きたいと珍しく駄々をこねたのでとしぶしぶつれて来てくれた。

ばしゃばしゃと先に入って波と戯れているあいつのところに、俺もざばざばと浸かってゆく。


「ったく・・・ ちょっとはお礼とかないのかよまったく・・・」

「ありがとうって、最初に言ったじゃん」

「・・・ま、そうだけどよ」

「ていっ!」


急にばしゃ、と水をかけられ、もろに被ったのであいつが大笑いしていた。

なんか一人、水着姿とか改めて二人っきりとかにどきどきしてる俺が馬鹿みたいだったので何か悔しかったので

「お返しだ!」

と水を喰らわせたら反撃が始まって、しばらく水の掛け合いを子供のようにしていた。

そんなしょうもない事に体力を使い、あいつがちょっと休もうといったのでパラソルの中に入る。

真昼間なのに騒音も何もない。 聞こえるのは波音だけ。

ちら、と隣に目をやるとあいつはジュース片手にぼーっと海を眺めていた。

さっきまで忘れていた緊張が急に戻ってくる。

なぜか無性に恥ずかしくなって黙っていると、海を見つめながらあいつが呟いた。


「海って青いねー・・・」

「・・・・・・・は?」

「青いね」

「まあ、そだな」

「なんで青いのかな」

「そりゃあ、真っ赤とか真っ黄色な海とか入りたくないだろ」

「ロマンのかけらもないやつ・・・・」

「何がだ」


つーかお前にだけは言われたくねぇと思っているとあいつは海から目を離す。

そう文句を言うとジュースを置いて、あいつは俺のことを少しじっと見つめた。

なぜかまた変に緊張して何も言わないで居ると、目を海に戻して言った。


「長い間寄り添ってきた夫婦ってね、次第に言語とか行動が似るものなんだって」

「 ・・・なんだ、いきなり」

「だからね、海は空に恋をして 一緒に居たから青くなったんだって」


小さいときにおばあちゃんに聞いたの、とそいつは笑った。

海に目をやると、水平線は空と混じって青かった。



ずっと長年居ると、なんて (ばからしいけど)。

───お前となら(ずっと一緒に)、なんて珍しくロマンチストな台詞が浮かんできた。



「・・・・・ なぁ、」

「うん?」


思わず手を伸ばして、まだ半渇きな髪に触れる。

緊張が熱になって触れている指先に集まる。


「? ・・・シリウス・・・?」


なんとなく顔が近くなって、きょとんと俺を見ている目が近くなって、 息がかかるほど 近くに、 なって。


「あ! カモメ!」


する、と俺の手から抜けて飛んできたカモメを追いかけ始めたムードも何もない俺の(いとしい)彼女。

やりきれない虚しさにちょっとガックリしていると、砂浜から


「シリウスー!みてみて、ほら こっち!」


なんて楽しそうな声が聞こえたので思わず顔が緩んで、(俺って弱い、と思いながら)パラソルの下からあいつのもとへ。







海水浴
(海は空に恋をして、青くなったそうだと君は笑う)
(そうなればいいと俺は思う)

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シリウス。

ヘタレ?な黒犬が書きたかっただけです。