その手をとることは、余りにも安易で。
真っ暗な裏路地を、気持ち悪いくらい青白い月が照らしている。
その月が、目の前に立つ 人を大きく見せるように 揺れて見えた。
折り重なる塊の上に、彼は立っていた。
「───・・・久しぶりじゃないか?」
前に立つ人物が、杖を仕舞いながら言った。
真っ赤な目が、私を見ていた。
「 り、・・・・・・るじゃ、ない よね」
口の中が乾いて、上手く喋れない。
彼はそんな私を見て、面白そうに低く笑った。
「こんなところで逢うとは、な」
そう言いながら、彼は塊をすべるように避け、私の目の前に来た。
赤い目、黒い髪、白い肌。
何も変わってない。
でも変わっている 何かが。
その何かが大きすぎて、きっとこんなに恐ろしく感じるのかもしれない。
「あ、な ・・・・・───ヴォルデ、モ ート卿 なの・・・?」
そう、信じたくなかったのかもしれない。
『あの』彼が、そうだと信じたくなかったのかもしれない。
この恐怖は、いったい何処から?
「今は、そっちの名前のほうが慣れてるな」
小さく笑ったまま、ヴォルデモートは静かに言った。
塊が転がったあたりで、蛇がすべる音がした。
目の端で、月明かりに照らされる同僚たちの亡骸が見える。
不思議と涙は出てこない。
きっと、彼がここに居る事の方が重要だからだ。
「そうか、そういえばお前は卒業したら魔法省に入るといっていたな・・・──まさか、それが闇払いとはな」
ヴォルデモートは横目で亡骸を見て、笑った。
「・・・っ、 貴方が あの人、だなんて 」
「信じられないか?」
「だって、貴方はやさし、く て・・・」
「こっちが、本当なんだがな」
未だ信じられない顔をしている私を、ヴォルデモートは微笑みながら見ていた。
あんなに好きだった彼の笑顔が、今はとてつもなく 恐い。
「本来ならお前もこいつ等と同じ様にするのだが、お前は惜しいしな」
吹く風に、地面と同じ真っ暗なローブが翻る。
彼の片手が、壁につく。
耳のそばで、腕の存在を感じた。
彼の冷たい笑顔が、目の前に在った。
「ずっと探してた。ずっと連れ去ろうと思っていた。 ・・・本当だ」
何もいえないまま、小さく首を縦に振る。
何故か、心拍数が上がった気がした。
ヴォルデモートは私をしばらく見つめて、私の髪を手ですくって口付けた。
「俺様と共に来い」
気がついたら、私は彼の腕の中に居て。
知らぬうちに、首を縦に振っていたらしい。
彼の腕の中、静かな彼の声がした。
「俺様のことが恐いか」
恐い、変わってしまった何かが。
何が変わったのかは、分からないけれど。
何も言わないでいると、ヴォルデモートは抱きしめる力を強めた。
「会いたかった、 」
何かが切れたように、目から泪が溢れ出した。
ぽろぽろと頬を伝い、幾つかは地面に 幾つかはヴォルデモートの服に染み込んだ。
彼の腕の中で ああそうか、と思った。
変わったのは、彼じゃなく 私だったのだ。
彼を 今の、彼を私は。
あ い し て し ま っ た か ら 。
「・・・・ヴォ、ル 」
「お前がどんなに底なしの闇に溺れようと、俺様はお前を助ける。 だから、傍に居ろ。」
「 ヴォル、」
「絶対だ 分かったな」
「・・・・・・・ うん、」
冷たく暗い夜の中で、私は誓いの口付けをした。
彼を愛してしまった私には、その手をとることは、余りにも安易で。
闇に堕ちる事に恐怖は感じない。
貴方が導いてくれるのならば。
罪を犯すことに後悔はしない。
貴方がそばに居てくれるというならば。
頭上には、瞬く星の海
足元には、底なしの罪
まるで歌のように、貴方は言った。
罪に溺れたって、助けてくれると貴方は言った。
だから力になってくれと、貴方は言った。
そばに居て欲しい、と。
その手をとることは、余りにも安易で。
貴方となら、貴方がそうそばで歌ってくれるなら。
私は溺れよう、貴方の言う破滅と共に。
私は生きよう、貴方の言う血の海の中で。
貴方が愛してくれるなら。
「何処までも堕ちるわ、我が君、 貴方のためなら」
(其れを貴方が望んでくれる、なら。)
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ヴォルさん、なんですけどあれ なんだこれ・・・。 求む文才。
元は拍手で公開していた詩(相手自由夢?)です。
一番ヴォルがしっくりきたので。
それにしても、なんかこのヴォルはベタですね・・・ 髪の毛すくって、どこのホスト。(自分で書いておきながら・・・
カタストロフ意味:環境に多大な変化が訪れること。変化に追従できないものは絶滅への道をたどる。