「はい僕おわ〜り〜」 「僕もー」 おつかれー、とジェームズは伸びをしながら言う。 リーマスも続いて、羽ペンを片付けながら言う。 「えええ?!もう?!待、待ってよ」 「お前らなんかズルしたんじゃないのか」 一方、唸りながら二人を見るとシリウス。 「やだなあ、僕は天才ジェームズ・ポッター君だよ? 反省文5メートルなんておちゃのこさいさいさ」 そういってジェームズは立ち上がる。 びらっ、ときっちり5メートル埋めた羊皮紙を未だ半分も書ききれていない二人に見せながら。 「でもそれって、それだけ今まで合計したらそれ以上になる反省文書いてきたからだよねえ」 冷めた目で威張るジェームズを見ながら、リーマスはもくもくと自分の机を片付ける。 「う。 そ、そんなの言ったらリーマス、君もだろ? そりゃあ僕たちよりかは大分怒られてないけど君も同じようなもん、」 「僕が誰と一緒って?」 「・・・いえ」 「じゃあ僕たち先に寮戻るから」 「ええ?!」 「だって北塔寒いんだもんー まあ早く終われば良いだろう?」 「終わんないからこんなんなってんだ!」 「それは自分の脳だよ。 君成績良いけど馬鹿だからね、しょうがないよ」 「は?!」 「まあ、僕たち先に帰るから 頑張ってね」 さわやかな笑顔で、友人二人は部屋を出る。 「は、白状者ォ・・・!」 「まったくだ」 恨めしそうにドアを見て、同時に深くため息をつく。 「あーもー、5メートルっておかしいよね、ありえない」 「ただいつもよりちょ〜っと悪戯が過ぎただけなのにな」 「あー私まだ3メートルはあるー」 「ふっ、俺の勝ちだな 俺あと2.8〜」 「変わんないから!」 カリカリと羽ペンを進めながら、言葉が飛び交う。 ひゅう、と窓の外を風が通る音が響く。 は少し暗くなった外を見て、余計に寒く感じてしまう。 「先生も酷だよな、こんな真冬に北塔で反省文なんてな」 だるそうに首を少し傾けながら、シリウスは呟くように言う。 「だよねえ、せめて図書室とかが良かった。 寒すぎて死んでしまう」 「おめーは大丈夫だ」 「なんでよ」 「子供体温」 「あんたも同い年でしょうが」 そうだったか?、と笑いながらシリウスは一旦ペンを机の上に放り投げ肩を鳴らす。 「あーさぶっ」 「知ってるよ馬鹿犬。言ったら余計そう感じるからそれ禁句」 「寒い寒い寒い」 「犬は寒いの好きなんでしょ 走り回って笑いながら凍死するといいよ」 「じゃんけんだ 」 「はあ?」 ついに脳壊れた?という目でシリウスを見る。 「何だよその目」 「いやあ、ついに馬鹿が壊れたのかと」 「は? じゃんけん負けたら厨房からバタービール二本持ってくる、どうだこれ」 「厨房?! めっちゃ遠いじゃん」 「だからじゃんけんだ 負けたら文句なし」 は最初嫌がったが、確かに寒いしバタービールが飲みたいので うなずく。 「よし、一回勝負だ いいな?」 「もちろん」 「「じゃーんけーん、ほい!」」 「っちく しょう・・・」 ぽつり、と呟きが漏れる。 落とさないように盆に二つビールカップをのせ、は悔しそうに呟いた。 「ああもう、遠いし寒いし馬鹿は調子のるし! 何が『行って来い、愚民』だぁ? 犬の頭にビールぶちまけてあげようか」 ふう、とため息混じりに北塔の階段の方へと向かう。 階段を上ろうとしたとき、ふと 廊下の片隅から声がした。 しかも、それは泣き声で。 何があったんだろう、と足音をなるべく立てずにその声のほうへ近づく。 どうやら、廊下の柱の陰らしい。 座っている子、多分泣いているこの足が見え 慰めているのだろう、もう一人の足とスカートが柱から覗く。 もう少し近づくと、声がこちらにも漏れてきた。 「ぅ、 ・・・っ」 「泣かないで、大丈夫・・・」 「や、 っぱり 分かってた、け ど・・・ っ」 「うん、分かってても告白したんだから 偉いよ」 「こうなるって、分かってた の、・・・に っ」 「うん、それだけ好きだったんでしょう?」 「好、 き ・・だっ、た・・・」 「うん、偉いね」 誰かに、告白して振られてしまったようだ。 盗み聞きする時点でいけないのだが、これ以上聞いてはもっと悪いと思いゆっくり体を反対方向には向ける。 ゆっくり階段の一段に足を上げたとき、遠くで呟く声が聞こえた。 「ブラ ッ、ク 君 ・・・・・・・・・・、」 「馬鹿犬ー、サマが持ってきて差し上げたよー」 ドアを開け、盆を持ちながら机に向かう。 「コラ、感謝の言葉も無いのか・・・・ あ、」 テーブルに盆を置きながら相手の顔を覗いては目をを丸める。 「・・・寒い部屋で寝ちゃいかんでしょう」 ふ、とため息交じりには目の前で机に覆いかぶさるように眠るシリウスを見た。 しかも浅くなく深い熟睡のようで、規則正しく背中が呼吸で動いている。 「バタービール、二本飲んじゃうよ」 そう言って、は自分の分のバタービールを手に取る。 さっきの風景が、いやに残る。 いや、風景じゃなく 台詞が、出来事が。 ただ、耳に残っている。 あの子が囁くように言った、台詞が。 ブラック君。 そう消えるような泣声で囁かれた名前は、とても深くて 寂しくて 冷たかった。 ただただ愛おしくて、でももう届かない、と言う様な声で。 「ブラック君、ね・・・」 ぽつり、呟きがこぼれる。 「女泣かせるなんて 最低だね、君は」 こくり、と一口飲んでは呟いた。 口の中が、ほんのりと熱い。 少しずつ、体の奥へ熱さが広がる。 「そんな風に君のせいで泣いてる子が居るってことを、シリウス 君は知らないんだろうね」 こく、ともう一度のどが動く。 体の奥がまた少し、温度を上げる。 「何にも知らない馬鹿犬シリウス・ブラック」 そう言って、は小さく笑う。 君は知らない。 君の返事一言で あんなにも、涙する子がいることも 君のことが本当に大好きで、涙を流す子も 君があまりに大切になりすぎて、何も出来ない子のことも きっと、知らない。 こくり、とのどが動く。 奥が熱い。 体だけじゃなく、目が、 私がいつもどう君を見てるとか 私がいつもどう君と話しているかとか 私がいつもどう君を思っているのかとか 君は、きっと知らない。 もう一度こくり、とのどを動かしたときのバタービールの味は、 何故か少ししょっぱかった。 君は知らない、
だからこそ、
ずるくて、
ねえ、
気づいて