きすきだあいすき!










「・・何だ、貴様は?」



じろり、と見下げられたはおずおずと抱きついた手を放した。

兄やジェームズと同じ黒い髪が目立っていたので飛びついたが、人違いだったらしい。



「あ、あの ごめん、なさい・・・」

「・・・・・・・・・」



目の前の不安そうに自分を見上げる姿を眺め、セブルス・スネイプはなんとなく思った。



「・・迷子か」

「え?」

「お前、迷子なんだろう」

「まい、ご・・?」



言葉の意味をイマイチ理解していないらしい。

見た目からして、五・六歳、といったところだろうか。

面倒に巻き込まれるのはごめんだ、とセブルスは心の中で呟き目の前の少女を見る。

未だ少女の目は不安そうに自分の顔を見ている。



「悪いが僕は忙しいんだ。他をあたってくれ」

「え、あの、」

「それじゃあな」



くるりと背を向けてセブルスは歩き出す。

なんとなく、どことなく誰かに似ていた気がしたが気のせいだろう。

そんなことを思いながら歩いていると、ふいに足が重くなった。

振り返るとさっきの迷子が自分の足に抱きついていた。



「・・・お前・・」

「ま、まって」

「嫌だ。僕は忙しい」



こんな子供に冷たいことを言うのはどうかと自分でも一瞬思ったが、子供は苦手だし新学期に必要なものを買い揃えたので早く帰りたい。

あまりダイアゴン横丁に長居して会いたくないやつらと遭うのも避けたい。



「他の人に聞けといってるだろう」

「や」

「や、じゃないだろ。僕は忙しいって言ってるだろう」

「・・みんなとはぐれた、の」

「それを迷子って言うんだ」

「まい、ご。」

「そうだ、自分は迷子だって他の大人に言え。探してくれるだろうよ」

「おにいさんは?」

「何だ」

「おにいさんはさがしてくれないの?」



真っ直ぐな大きく丸い瞳が自分を見つめる。

少し黙ってから、セブルスは足から少女を振り払う。



「さっきから言ってるように、僕は、忙しい。わかるな?」

「・・・・・・うん」

「だからお前の保護者探しには付き合ってられない」

「ほ、ほごしや?」

「・・・・・とりあえず、僕以外に頼め」



そう言って再び背を向ける。と、さっきより早く足に重みを感じる。

振り返るときつく足を抱きしめる子供。



「あのなあ・・・!」

「いっちゃやだ」



声が上ずっている。見上げてくる瞳は、涙でいっぱいだった。



「やだあ・・・!」

「わ、わかった!探してやる!探してやるから泣くな!」



こんなところで大声で泣かれれば周りになんと勘違いされるか。

保護者探しは面倒だが、泣かれて犯罪者か悪人と勘違いされるよりはマシだとセブルスはあきらめたようにしゃがんで少女に目線を合わせる。



「名前は?」

「・・ひぐ、

「何歳だ」

「ご、さい」

「しょうがないからお前の保護者を探してやる。だから泣くな」

「 うん」



はあ、とため息をついて立ち上がる。

少し溢れた涙をを手で拭いながら、はセブルスを見上げて尋ねる。



「おにいさんのなまえ、は?」

「セブルスだ。セブルス・スネイプ」

「せぶるす・・・」



小さく繰り返した少女を見ながら、セブルスは早く済ませよう、と心に誓いながら右手を差し出す。



「ほら、早くしろ」

「 うん!」



は嬉しそうにその手をとり、セブルスはもう一度ため息をついた。

全く面倒だ、と思いながらその小さな手を引いた。



















「せぶるすは、ぐりふぃんどーるなの?」

「え?」

「せぶるす、ほぐわーつなんでしょ?」



から教えられた保護者の特徴を持つ人物を探すのを一旦やめ、を見る。

はちがうの?とセブルスを見上げる。



「寮のことか? それなら違う。僕はスリザリンだ」

「すりざりん?」

「ああ。お前のその兄ってのはグリフィンドールなのか」

「うん!おにいちゃんのともだちもみんな!」



セブルスはさらに面倒なことに手を貸した、と思った。

こいつ、グリフィンドールの誰かの妹なのか。知り合いだったらものすごく嫌だ。



「せぶるすは、なんねんせいなの?」

「次から七年生だ」

「なな?」

「ああ」

「じゃあおにいちゃんといっしょだね」

「・・・・・・何」

「おにいちゃんも、ななっていってた!」



にこにこと見上げてくる少女を見て、セブルスは嫌な予感をさらに強めた。

この黒い髪、この瞳。初めて見たときから脳裏をチラついていた人物の姿がじわじわと鮮明に思い出される。



「? せぶるすどうしたの?」



思わず苦々しい顔をしたセブルスを見て、が首をかしげた。

なんでもない、と答えてまた保護者を探しながら、セブルスは聞くか聞かないか迷っていたことを 聞いた。



「なあ、

「うん?」

「お前、苗字はなんていうんだ」

「みょうじ?」

 なんていうんだ?」

のみょうじはね、ぶら、っ きゃ」



がころんと地面に転がる。

ぶつかられた男は小さな少女を舌打ちして見下げる。



「気をつけやがれ、ガキ」

「っごめ、なさ、」

「子供に絡むな」



今にもを足で蹴り上げそうな男の前に立ちふさがり、セブルスは冷静に言った。

男はイライラとした様子でセブルスを睨みつける。



「なんだ、兄ちゃんか?親か?」

「どっちでもない、が、いい大人がこんな子供に絡むもんじゃないだろう」

「うるせェ」



殴る体勢に入るように、男が一歩後ろへ下がる。

その一瞬に、セブルスは小さな体を抱き上げ、走った。











「せぶ、せぶるす!」

「はあ・・もう居ないよな?」

「せぶるす、すごい!にげるの、はやい!」



きゃっきゃとはしゃぐを降ろし、セブルスは大きく息を吐いた。

喧嘩は苦手だが、回避は日ごろの学校生活で鍛えられているので得意だ。

セブルスはしゃがんで、手のひらをの頭にのせる。



「大丈夫か?」

「うん!ありがとう、せぶるす!」

「ならいい」



そう言って立ち上がったセブルスの視界に、見たくないものが入ってくる。

それをも見つけたのか、その人物に向かって叫んだ。



「おにいちゃん!」



ああ、やっぱりか。セブルスは盛大にため息をついた。

呼ばれた本人は妹を見て、こっちに駆け寄ってくる。



!大丈夫か!なにやってたんだ!」

「おにいちゃんっ!」



兄の元へ駆け寄り、抱きかかえられ嬉しそうに笑う

シリウスは一度ぎゅっとを抱きしめて、の隣に居た人に頭を下げようと近づく。



「ああ、すいません妹がお世話に・・・・・・ っててめェ、スネイプ!」

「おにいちゃん、ともだち?」

!お前、こいつと一緒にいたのか?何された?」

「うるさいぞブラック。妹を保護しておいてあげた奴に礼もないのか」

「黙れ!」



「あら、シリウスとセブルスじゃな・・・・ まあ!大丈夫だったの?!」



人ごみからシリウス達を見つけたリリー達はシリウスに抱かれている少女を見て駆け寄る。

は嬉しそうにリリーの腕の中で笑う。



「あのね!せぶるすがね、まもってくれたの」

「まあ、セブルスが?」

「へえ、それはどうだかねえ」

「ジェームズ、は嘘つかないよきっと」

「いーや、絶対嘘だな!に何をした!」

「黙れブラック、ポッター。ルーピンも」



僕なにも言ってないじゃないか!と憤慨するリーマスをよそに セブルスとシリウス、ジェームズは睨みあう。

そんな三人を状況を理解せずただ眺めているに、リリーが優しく声をかける。



「ねえ、。 あの人がずっと一緒にいてくれたの?」

「うん!いそがしいっていったのにさがしてくれたの!」

「そう、危なくなかったのね?」

「あぶなかったよ!」

「・・・・・・え?」

「こわいひとにね、あってね、でも せぶるすがぶわーってはや、はや・・・はやわ・・・」

「早業?」

「うん、それ!それでね、にげてくれたの! ひーろーなの!」

「そうなの。良かったわねえ」

「うんっ」

「ほら!そこ!馬鹿犬!」



未だ言い合っている男子達に、リリーが声をあげる。

なんだと、とシリウスはリリーに向き直る。

リリーはさっきから聞いた状況を簡単に説明して、ふんと鼻を鳴らした。



「ほら、わかったでしょう? セブルスにお礼言わなきゃ」

「・・・・、本当か?本当なのか?」

「よほど信じたくないんだね、気持ちはわかるけど」

「うん、せぶるすはひーろーなの!」

「別に礼なんていらない、僕はもう帰るぞ」

「帰れ帰れ、礼なんて言わないからな!」

「馬鹿言わないでお礼言いなさいよ、馬鹿!」

「本当だよ、シリウス。ちゃんとお礼は言わなきゃ」

「うるさいリーマス、俺は嫌だ。なあジェームズ」

「そうだね、わかるよ」

「もう付き合ってられるか」



そう言い捨ててセブルスは背を向ける。

それを見ては慌ててリリーの腕からすり抜け、セブルスへ駆け寄った。



「せぶるす!」

「・・・・もう迷子になるなよ」

「あのね、ほんとにありがとう」



ふにゃ、と笑うにセブルスの眉間の皺の深さが浅くなる。

ちょっと笑って、しゃがんで優しくの頭を撫でる。

すこし後ろで怒鳴り声が聞こえたが聞こえなかったことにする。



「気をつけるんだぞ」

「うん!あのね、せぶるす」

「何だ」

「だあいすき!」



ぎゅう、と抱き着かれてセブルスは目を丸くする。

後ろで悲鳴か絶叫に近い怒鳴り声が聞こえた。これ以上は身が危ないと感じ、ありがとう、と返して身体を離す。

目の前の少女は相変わらずにこにこと笑顔だ。



「だからね、おれい、する!」

「え?」

のふぁーすときっす、せぶるすにあげる!」

「は?」

「せぶるす、だいすき!」



ちゅ、と軽い音が響く。

セブルスは呆然と目の前の少女を見つめる。少女はえへへ、と笑った。











「う、ああああああてめえスネイプ許さねえええええ!」

「ちょっと、?!なにしてるの!」

「ちゅうしたの!」

「くっそスネイプ面貸せ!今すぐ!」

「嫌だ!というか不可抗力だ!」

「ねえ、どうしてキスしたの?」

「まえにりりーが、ふぁーすときっすは、だいすきなひとにあげるものっていってたから」

「まあ・・・ 」

「だからね、 せぶるすだいすきだから あげたの!」

!今すぐうがいしてこい!」

「失礼だな貴様!」

「やだ!」

「僕にもしてくれたことないのに・・・」

、おとなになったらせぶるすのおよめさんになる!」

「絶っっっっっっ対許さねえええええええ!」

「全く君もあんな子供をたぶらかして・・・・見かけに寄らず外道だね」

「お前らに言われたくない!それより、何を子供のキスぐらいで・・っ」

「ぐらいじゃねぇ!おっ、俺だってしてないのに!」

「えっ、そうなのかいシリウス」

「おにいちゃんとちゅうしてないよ」

「スネイプてめえええええ!」

「八つ当たりだ!」


















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キャラ崩壊ひどいなこれ。

そんなわけで新シリーズ、よろしくお願いします。