「あ、 教師が屋上で昼寝してる」
あまりに青い空の下、眠気が酷かったので昼食後の授業をサボろうと屋上に来ると うちの担任が建物の陰になっている特等席を先に陣取っていた。
多分授業がないから寝ているのだろうが だからといって教師が堂々と屋上で居眠りこいていていいのだろうか。
「坂田ー 坂田せんせー。 銀八先生ー」
何度か名前を呼んでみるものの、まったく起きる気配はなく。
右手に飲みかけの苺みるくの紙パックを持ったまま、目の前の銀八先生はとても気持ちよさそうに目を閉じていた。
先生の前にしゃがみこみ、特等席が取られた と悔しそうに呟く。
そして、ふと 寝顔を観察することにした。
「・・・寝てたら天使、」
その言葉しか出てこなかった。
穏やかな寝顔は天使しか出てこない。
さらに都合よくこの人は銀の髪をふわふわと風になびかせていたので 天使、という言葉がよく似合っていた。
「黙ってたら もともと、顔はいいもんね」
ついつい、思っていることが口に出てしまう。
普段あんまりにダラダラとしているので忘れがちだが 銀八先生は部類に分けると格好いいほうである。
さっきも述べたとおり 黙っていたら、の話なのだが。
ふわふわと、銀の髪が太陽の光に反射しながら揺れる。
その髪に、触れたい と。 は銀八先生を見つめながら思った。
気持ちよさそうな寝顔を見ていると、思わずこちらも表情が緩む。
「・・・・・格好良いんだよ、 馬鹿・・ 」
さっきまでの声とは違う、喉から絞り出るような声が出て 風の中に溶けて消えた。
ついさっきまで、緩んでいた表情は今はもう無くなっている。
寝顔を見ていると、普段の銀八先生がぐるぐると頭を回る。
授業中にボーっとして怒られたり、休み時間にしょうもない質問をしたり 放課後補講を受けさせられたり。
何気ない顔をしてるけど いつも、いつも 。
むねはいたんだまま。
ふわり、髪が揺れる。
思わず手が伸びて 起こさない様にそっと髪に触れる。
やわらかくてさらさらしているその髪を 軽く撫でる。
こんなにちかくに。 あなたはいるのに。
こんなにちかくに。 わたしはいるのに。
何も知らないような天使の寝顔で 先生はうとうとと首を少し傾けた。
その無防備な仕草が むねをいためた。
手を離して 髪の感触を忘れまいと握り締める。
ふわふわした感触が 握ったこぶしの中で残っていた。
「───すきって、 気づいて よ・・・」
思いもよらなかった言葉が 口から出ていた。
そんな言葉が聞こえているわけもなく、まるで青空が行き場のない言葉を吸い込むように雲を払いのけてさらに青くなった。
風が、また 吹いた。
・・・───何を思ったのか。
ばたばたと屋上から教室への階段を駆け下りながら は口を押さえていた。
熱が足のそこから湧き上がってくるように 顔に集まって熱を発した。
「何やってるんだ、私は ・・・・・!」
真っ赤な顔で階段を下りるのをいったん止めて 壁にもたれかかって呟いた。
頬が熱い。 頬に触れる手が熱を感じる。
いや、もう その手さえ熱い。
あの顔を 見ていたら、あの髪を 見ていたら
あの人を 愛しいと思ったら、体は動いていて。
自ら触れた、唇が触れた感触を、さっきの髪を触った官職よりも鮮明に記憶していた。
早くなっていく鼓動を抑えるかのように 唇に当てている手とは反対の手で胸を押さえる。
覚えているのは。
唇が触れた感触と 鼻が微かに触れる感触と
「・・・・っも、 やだ・・・・・・」
ふわふわした、 あの人の髪の香り。
もうすぐ授業終了の鐘がなる頃。
だんだんと遠ざかる ばたばたと階段を下りていく音を耳に入れながら、銀八はゆっくり目を開けた。
そして、珍しく顔を真っ赤にして 口に手を当てて、銀八は本当に困ったような声で呟いた。
「何やってんだ、あいつは・・・・・」
唇がが触れた感触と 鼻が微かに触れる感触と
「・・・・っくそ 、・・・・・・」
あまいあまい、 あいつの髪の香りが
これでもかと頭に残っていた。
青空のした、きみに恋の唄。
(太陽が嗤うように自分をみてる)
END
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銀八先生。
あれ、そういえば白亜「銀時」書いたことないな・・・。
銀八のほうがとても書きやすいです。
銀八は白亜の中でも指折りの「片想い設定が似合う」人物なので
どうしてもヒロイン→銀八設定になってしまいます。 楽しい。
これもまた話が思いつき次第「胃と心臓の間」みたいに続きができるかもしれません。
つかこれ先生との絡みがない・・・
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