どうして貴方はいつもいつも私をそうやって苦しめて、






「お前俺のこと好きってまじか」



何かが砕けた音がした。























ちゃん授業サボるなんて珍しいじゃない」



ぼーっと屋上で座っていると、授業が終わったのかお妙ちゃんが缶ジュース二本持ってやって来た。

そしてぽん、と私に一本渡して自分のを開けながら私の隣に座った。



「もう授業終わったんだ」

「うん、 次もサボるの?」

「次はちゃんと出るよ」



ふーんそう、と言いながらお妙ちゃんはごくごくカフェオレを飲んでゆく。

つられてごくごく私も飲むけど、なんか胃に痞えて飲みにくい。

綺麗事で言ったら罪悪感、ってやつだろうか。



「最近よくサボるよね、ちゃん」

「反抗期ですよ反抗期」

「しかも銀八先生の授業ばっかり」



ねえ?、という風にお妙ちゃんにちらっと見られる。

う、と詰まって缶コーヒーから唇を離す。



「何かあったの? 先生と」



お妙ちゃんはきっと分かっているんだろうけど、一応聞いておくという顔をしていた。

そして私がその通りな顔をしてみると やっぱりね、とちょっと笑った。



「ばれたんだ」

「ええ仰せの通りです」

「なんでまた」

「知らないよ むしろ聞きたい」

「ふーん、 で。 なんて答えたの」

「 ・・・逃げてきちゃった」

ちゃん、 あなた ・・・馬鹿?」



はー、とため息をつかれてしまった。

馬鹿だなんて自分が一番知っているのでよけいなんだか悔しい。

何もいえない私を見て、お妙ちゃんはそう言いながらもぽんぽんと頭を撫でてくれた。

なんだか泣きそうになったから俯いていると、乾いたチャイムの音が響いた。



「出るんでしょ、次は」

「んー ・・・今日はここに居ようかな」

「不良ねぇ」



そう言いながらお妙ちゃんは立ち上がって、また来るねそういってドアを開けてまた屋上には私だけになってしまった。

さっきより何だか一人が寂しくなったからやっぱり授業に出ようかと一瞬思ったけど面倒なので結局そのまま座っていた。

乾いた高い音を立てて自分の缶コーヒーを握りつぶす。

この音に似た音を つい先日、 聞いた。





















「お前俺のこと好きってまじか」



新しく出た缶タイプのいちごミルクを飲み干した銀八先生は片手で缶を握りつぶしながらふいにそう言った。



教室で一人、お妙ちゃんが帰ってくるのを待っていると先生が来て入ってくるなり缶を開けて飲み始めて見ていると、 飲み終えてそう言った。

は? と声にならないまま先生を見ると、 まじなのか?と先生は繰り返した。



「え 。・・・・・・・・・・誰がそんなことを?」

「いや、別に。 それより俺の質問に答えろよ」

「 っ、え 何、を」

「だから、   お前って本当に俺のことがす、」



タイミングよくチャイムが鳴り響いてそれ以上銀八先生の声は聞こえなかった。

先生がチャイム音を鳴らすスピーカーを睨み付けている間に鞄を背負って私は教室から出て行ってしまった。

逃げる教室からあ おい、と声は聞こえたけど追ってくる足音は聞こえなかった。



もう絶対会えない、 そう思った。









「なんでばれたんだろ」



一番の原因を考えても浮かんでこない。 私が分かり易かったのだろうか。

とはいえ、あんなことがあった手前絶対に顔を見たくない。

今思えば、あのときに そんなわけないでしょうと返せば普通に顔を合わせられたのに。

逃げるなんてそんな、肯定しているようなもので。 実際間違っていないのだが、 やっぱり簡単に流せばよかった。

後悔しても遅いので、また缶を握りつぶす。

乾いた高い音が 耳に響く。



「  惚れたもん勝ち。」



そう呟いて、 なんて馬鹿らしい言葉だと自分で思った。

どこが勝っているのだ。 不完全燃焼で連敗中の自分が。

惚れたもん負け、そっちのほうが似合う。

負けも何も 戦いもしていないからただの弱虫なのだが。



「わかってた 。」



そう自分に言い聞かせる。

わかってた、わかってた、わかってた 。

こ う な る こ と は わ か っ て た 。

それなのに、 まだあの人を好きでいる自分が嫌を超えて可哀想になってきた。

どうしてあの人は、いつもいつも 私をこんなにも苦しめて、







「おいサボり」





ふいに前方で声がした。

でもお妙ちゃんの声じゃない。

聞きたかった、 いやもう絶対に聞きたくなかった人の声だった。



「ぎ 、ん八先生 ・・」



銀八先生はまた缶のいちごみるくを片手にのそのそとこっちにやって来た。

体が逃げようと強張ったが、座っているのもあり逃げられる状況ではなかった。

手前まで来て、先生はいつもの何も見ていない様な目で私を見た。



「俺の授業をサボるとはいい度胸してるじゃねーか」

「 ちょ、っと体調が優れなくて」

「じゃあ保険室だろ行くところ。 そんな言い訳いらねーよ」



何か言おうと思っても、のどに痞えて出てこない。

その代わりに 涙腺が緩みそうになっている気がした。

銀八先生はそんな私を見て、ちょっと頭をかいて目を逸らして言った。



「  前の。 ・・あれのせいだろ」



ここでまた「え? 何のことですか?」とか返せたら良いものを、馬鹿な自分は言葉が詰まって俯いてしまった。

銀八先生は続けた。



「急に、悪かったとは思ってる  ・・・悪いな」



私は何も言わずに下を見ていた。

先生は悪くない、そう思いながら。



「俺もなんかその。 タイミングっていうか聞いていいこと悪いことがあったっていうか」



先生は悪くない、 悪くないんです。

ただ私が、 分かってた結果に順応できなかっただけ。



「 ・・でもさ、その 前の質問の答え? ・・・聞かないけど、お前態度で肯定してるって知ってるか?」



知ってますそんなの。 でも勝手になるんだから仕方がないでしょう。

私だってこんな風に肯定したくなんかない。 否定したい。



「でも、ほら 俺教師だし。 お前生徒だし、もうすぐ卒業だけど」



知ってますそんなの。

貴方に惚れた私の負けなんです。



「それでさ、    ・・・・・なあ聞いてる? 顔上げろよ」



聞いてます。 貴方の言うことを聞き逃すはずがない。

でも顔は上げたくない。 あげたら何かが零れ落ちているのがきっとばれてしまう。



「なあ 惚れたもん勝ちって言葉、知ってるか?」



知ってます。 私には反対の意味をなす言葉。

知ってますだから、もうこれ以上なにも言わないでください先生。



もう私を苦しめないで、













「こっち向けって言っただろ ばーか」



今までにない近さに銀八先生の顔があった。

私の目は涙を流すことも忘れて、ぽかんと先生を見ていた。

先生は なんかしょっぱいなとかいいながらちょっと笑った。



記憶が飛んでいる。

何が起きたのか覚えてない。

何かが触れた。

何かが 触れ、  て。





「 え ・・・・・・・・・・?」

「何そんなに吃驚しなくたって良いだろ。 そんなに嫌だったか?」

「 せん、せ  何を し、て・・・」



先生は分かんなかったんならもう一回してやろうか? そう言って得意そうに微笑んだ。

微笑んで、前したみたいに、ぽんぽんと頭を撫でた。



「俺の負け。  惚れられたもん負けってヤツだわ」



そう言って、 先生は私の名前を呼んだ。

苗字じゃなくて 前みたいに ファーストネームのほうを。



「 、 俺も好き」



触れられた髪が熱い。

名前を呼ばれた耳が熱い。

鼻と首の間の、 唇が、熱い。



あれだけ動かなかった口がふいに開いて、いえなかった言葉を呟くように発した。





「好きです先生。   すき、」





甘苦いカフェオレの味がいちごみるくと混ざって甘くなったのに、私の涙のせいでしょっぱくなった口の中を 先生は笑って名前を呼んでキスをして、また甘くした。



夢だといわないで本当だといって抱きしめてくれますか

















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銀ちゃん夢。 続・先生。

前の「胃と心臓の間」の続きで。



この「〜間」の銀ちゃん夢は甘く切なくを掲げて書いたので、出来ているかどうか不安ですが ちゃんと両想いになれてよかった。



そういえば、何で胃と心臓の間なんだ と聞かれたので ここで答えると

ベタですが、 好きな人のこととかになると胃と心臓の辺りが苦しくなりません? 少女マンガ風に言うときゅんってしません? ・・・という白亜の独断です。個人差があると思われます。



鼻と首の間は 本文にも出たとおり唇です。