ある江戸の町に、閉じ込められたお姫様がいた。








「気持ち悪いくらい明るい夜だな」




夜道、闇に隠れるように歩いていた高杉は空を見て小さく呟いた。


真っ暗な街を、青白い満月がいやに明るく照らす。





満月の夜、月のお姫様は、月からの使者に。






そんなお伽噺が脳裏をよぎり、思わず口元が上がる。

すこし、歩く早さが早くなる。


もう少し行けば、その使者を待つ姫が。








コン、と外からある家の部屋の窓を叩く。

少しして、カラ と音を立てて窓が開く。


「高杉、 さん・・・?」


窓から彼女は驚いた顔のまま、自分をまじまじと見つめていた。

「よぉ 久しぶりだな」

「え、 ・・・うん・・・」

「相変わらず閉じ込められの生活か」


そういうと、彼女は目を伏せて頷いた。


「・・・私は、ずっと、この家にいなくちゃいけないから」

「親が男連れてくるまでか」


何も言わず、彼女は小さく頷いた。



窓一枚隔てて、美しい家紋に閉じ込められた姫は悲しそうな顔をする。



家という檻の中育った姫は、外という世界を何度も夢見るがそれは夢。


目が覚めれば、親と世間と家紋の檻の中。


いつかに出会った、外で暮らす野良猫。




野良猫は微笑んだ。





「今日は、綺麗な満月だ」


ふ、と目を上げ月を見る。


「・・・本当、綺麗ね」

「なあ、  姫」

「姫って呼ぶの止めてって言ったでしょ 嫌なの」

「満月の夜に、連れて行かれる姫がいるのを知ってるか」

「お伽噺の?」



「目の前にいる野良猫が、月からの使者だったらどうする」





彼女はさっきのように、もう一度驚いた顔をした。

そして、小さく首を振った。



「でも、そんなの 家が許すわけないわ」

「ちゃんとお伽噺読んだことあるか? その姫は親がいくら嫌がっても連れて行ったんだ」

「・・・・でも、危ない から  私の所為で高杉さんに危ない目には 、嫌だもの」

「危ない目には常に起こしてるから平気だ 知ってるだろう、俺の噂を」


そう言うと、彼女は少し困ったように笑う。

そして小さく頷いた。



「猫の皮をかぶった狂犬の話なら聞いているわ」

「今は月からの使者だ」

「真っ暗な空への、でしょう」

「そうでもないかもしれねぇぜ?」



窓一枚隔てた相手へ、手を差し出す。

閉じ込められていた姫はその手をしばらく見つめて、使者へ微笑んだ。




「連れて行ってくれる? 私を」





一筋の雫が月に照らされる。

使者は微笑んだ。


冷たくも温かい目で。



「姫がお望みなら、 いや──嫌がっても連れて行くがな」

「乱暴な使者ね」


そういって、手をとった。







数十人の手元にもたれる灯火から逃げているとき、使者の手を握る姫は使者に言った。


お願い、私をれて行って 遠い遠い所へ
「嫌がっても離すかよ、覚悟しろ」









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高杉さん。
あれですね、自分はお伽噺とか童話に便乗して書くのが本当好きですね。
ヒロインは姫っていうか、いい所のお嬢様ってことです。