苦しいのがわかっているのなら、恋などしなければいいものを!


「おーいそこの君。なーに堂々と俺の授業で寝てんのかな?」



数週間前に比べ気温がだいぶ温まった頃。

うとうとと机に伏していると夢のなか ちょっとまどろんだ耳が銀八先生の声を捉えた。



顔を上げようと思ったが思ったほか頭が重く、つまりまだ夢見心地だったので伏したままでいた。

それから3度ほど おい、きいてんのか、起きてるんだろ、と聞こえたがすべて耳から抜けていった。

うとうとともう一度夢の世界へ帰ろうとしていると、隣のお妙ちゃんにちゃんちゃん、とこそっと耳打ちされた。



「居残りにさせられちゃうわよ」



私は 顔を上げなかった。















「そいで? 一度目覚めたにもかかわらずもう一度寝た理由は?」

「夢の世界が私を呼んでいたんです」

「はっはっはっは お前それで世の中通用すると思うなよ」



くるくるとペンを回しながらこっちを向いて座った銀八先生はまあ俺もガキの時は寝たけどな と矛盾したことを言った。

窓の向こうで部活生がわいわい声を出して走り回ってるのを聞こえる。

そっちボールいった、え なんだって、だからボール、だからきこえないって、このばか! とかなんとか。

ああ平和だな とか思ってたら銀八先生に丸めたプリントの束でぽこんと頭をたたかれた。



「なんですか先生」

「君さ。 人の話聞いてる? さっき俺がカッコよく先生ぽく説教してたの聞いてた?」

「もちろんです」

「じゃあ内容話してみろ」

「先生は糖分があれば生きていけてナース服が好みでかといってメイドも捨てがたくてとか言ってる間に糖尿病がそろそろやばくてお茶の産地は静岡です!・・・ですよね」

「違うわ! しかも何で全部内容自体は正解してるんですかでも違う!聞いてなかったなお前」

「えーだって先生の話長いから」

「説教とはそんなもんです」



たくお前は、と言いながら銀八先生はもう一度軽く束で私の頭をたたいた。

私がちいさくすいません と言いながらたたかれた部分をさすっていると、銀八先生はちょっと待っとけ そう言って教室を出て行ってしまった。

たぶん補修プリントとか出されるんだろうなとか思っていすに座ったまま伸びをする。

黒板の上に堂々と書かれた 糖分、という字が目に入った。



「私に足りないのは心の糖分です」



そんな詩じみたことを自分で言って、ちょっと笑う。

そして同時に 泣きそうになってしまった。



どうして顔を上げなかったのか なんて理由はひとつしかない。

居残りでも何でも。 あの人と居られるのなら。 私は、





「おう、お前 なにやってんだ」



ガラ、と急にドアが開いて銀八先生が戻ってきた。

伸びのポーズのままだったので慌てて両手をひざの上に下ろし いすにきちんと座る。



「そんなにあれか、居残りは暇か」

「いえ別に。 それなりに楽しいですから」

「棒読みで言われてもな。 ほい、」



ぽい、と何かを投げられる。

開いた手のひらには 四角くて茶色い甘いお菓子。



「・・・・・・・・・チョコ?」

「疲れたときは甘いものがいっちばん良いんだぞー。」



世界で有名な探偵がジャンプでそう言ってたんだからな、そう言いながら銀八先生は笑った。

とりあえず一礼して口にチョコを入れる。

甘さがとろとろ溶けながら、溶けてゆくほど、胃と心臓の間ぐらいが締め付けられる気がした。



「なんでまた チョコくれたんですか」

「いや な。 実は最近気になってたんだ」

「何をですか」

「お前が」



胃がひっくり返る気がした。

銀八先生は私の目を見たまま 口を開いた。



「最近、よくぼーっとしてるだろ。 暖かくなってきたのもあるかもしれないが、何か元気なくないか?」

「あ、ああ そっか そういう意味・・・・・」

「は?」

「いえ、何でも。 そんなことないですよ?」

「いや、何か元気ないぞ」

「大丈夫ですって」



片手を振りながらそういうと、銀八先生は疑わしそうな目をしたまま 首をかしげた。

さっきから締め付けられているところが もうそろそろ千切れてしまいそうなほど いたい。



「 ま、本人がそういうんなら俺は何も聞かないけどよ」



そうため息混じりに言って、銀八先生は自分の分のチョコを口に入れた。

もう私の中にはチョコはないのにまだ未練がましく甘さが口の中で残っていて嫌だ。

この甘さが ものすごく苦しい。

すると校内放送で校長が銀八先生を呼び出した。

やべ漫画もってきたのバレたかな、といいながら先生は笑った。

私もつられて笑った。  泣きそうだったけど。



「じゃあちゃんと休んで授業はちゃんと聞けよ」



そう言いながら立ち上がる銀八先生。

私ははーい、と気の抜けた返事を返す。

銀八先生はまたちょっと笑った。



「じゃあ欧米風に挨拶して帰るわ。 シーユーアゲイン!」

「先生国語教師ですよね」

「いいんだよそのへんは。欧米風がしたかったの。 じゃあな、

「 は、」



思わずいすから立って止まった私を見て 先生が不思議そうに首をかしげた。



「なに驚いてんだ。 欧米じゃファーストネーム呼びは普通だろ」

「 あ、ああ そうですね・・・ イエッサー」



やっぱなんか抜けてるぞ、と先生は言いながら私の頭をプリントの束ではなく手でぽんぽん、と叩いた。



「じゃあ何かあったら先生に言えよ。 聞いてやるから」



返事が返せずこく、とうなずいた私に先生はもう一度ちょっと心配そうな顔をしてから 笑った。



「じゃあな、。 シーユー」



最後にもう一度ぽん、と頭に手を乗せて先生は出て行った。

ひとりぽつんと、残された私は 動くこともできないまま さっき触れられた頭に自分の手を乗せる。



触れられた髪が熱い。

名前を呼ばれた耳が熱い。

胃と心臓の間が苦しい。



先生の言葉がよみがえる。

何かあったら先生に言えよ、そう言っていた。

私は、  私は、 わたし、は。





「好きです先生。   すき、」





あれだけ甘かった口の中が、開いた口に入ってきた涙のせいで急にしょっぱくなってしまった。



もう一度名前を呼んでくれますか











END



++++++++++++++++++++++++



3Z設定銀ちゃん夢。 銀ちゃんまともに書いたの初めてだ。

名前を「銀時先生」と打っていて慌てて「銀八先生」に直しました。

拍手で銀ちゃん先生夢を書いていて(片思いネタの)、それの続編ではないですが ひとつのお話にちゃんとしたかったんです。



片思いをしていたある友人を考えながら書いたので、心の中でその友人に捧げます(精神的いじめだな) 後は白亜の経験をちまちまと。

どうも最近白亜は本当に切ないネタが好きらしいですすいません。