可愛い可愛いアリスは不思議の世界に迷い込んでしまいました。

可愛い可愛い少女 アリスは泣きました。

可愛い可愛いある少女が森でひとり、泣いていました。

そんな可愛い可愛い子を、じっと見つめているものがいました。

むらさき色の衣を纏ったその者は、にんまり、笑って少女に近づきました。



「───こんなところで、何をやってるんだ?」

「あな、たは だれ・・・?」



むらさきの者は、すこし笑っただけでした。

少女の質問には答えず、変わりにむらさきの者は尋ました。



「お前の名は?」

「わ、私は 

「そうか、。 何でこんなところに居る?お前さん、なかなかいい所の育ちだろう?」

「どうして、そう思うの?」

「着物が上質だ」



そう言われて少女 は黙ってうつむいてしまいました。

むらさきの者が言っていることは間違っていません。

ここは荒れついた者が溢れ溜まり身を潜めている森で、普通の人は近づこうともしません。

ましてや、いい家のお嬢さんなんかは近づく前に禁じられているでしょうし もしかしたらそんな森があるのさえ知らないお嬢さんのほうが多いはずです。

でもは、そんな森の中うずくまって泣いていました。



「なあ、。なんでこんなところに居るんだ?」

「・・・・・・」

「言いにくいか? じゃあ質問を変えよう、。いくつだ」

「・・いくつ、に見える?」

「餓鬼」

「餓鬼じゃない!背が小さいだけ!」

「餓鬼だろ」

「違う!縁談がくる年齢・・・・・・っ、あ」

「ああ、何となく分かった。 家出か」



がぐ、と詰まって目をそらしたのをみてむらさきの者は少し笑いました。

むらさきの者の考え通り、は家に無理やり決められた縁談が嫌で嫌で、この森に身を隠していたのでした。



「この辺りは江戸周辺でも特別治安が悪い。分かってるのか?」

「・・・知ってる」

「 それでも、ここに来たのか?」

「じゃないと・・・また、家に連れ戻されてしまう・・・」

「でも、ここに居ても同じだと俺は思うがな」

「・・・・・・・・わかって、るけど・・・」



は涙を拭いて立ち上がりました。

そうして、むらさきの者を見つめて さっきと同じ質問をしました。



「あなたは、だれ?」

「・・・さあ」

「高杉晋助でしょう?」

「どうしてそう思う?」

「お尋ね者のチラシを見たことがあるから」

「そうか」



そういって、紫の着物を羽織った高杉は微笑みました。



「まあ俺が誰だとしても、いいとこのお嬢さん というかいい歳の女がこの辺をうろつくのは良いとは思わないぞ」

「・・・そう?」

「やっぱりお嬢さんだな。分かってない。 一人で居てみろ、散々玩具にされて何処かへ売り飛ばされるのがオチだ」



そう言われては少しショックを受けたようでした。

高杉は少し笑って まあ、ずっと一人で居たらだと付け足しました。



そしてしばらく、高杉とは話に花を咲かせていました。

遠く、でも近くの江戸からの鐘がもうすぐ日が暮れることを告げていました。

その鐘を一通り聞いて、高杉は黙ったに言いました。



「良いのか、戻らなくて」

「・・・・・だって」

「暗くなったら一層危ないぞ」

「でも、 私は・・・。」



でも本当は帰らないといけないとは分かっているのでしょう、少し悲しそうに鐘がなっているほうを見つめました。

そんなを見て、高杉は少し黙ってから口を開きました。



「最後に、面白い話をしてやろう」

「なに、急に?」

「聞いたら、帰れ」

「・・・・・・何の話?」



高杉は少し微笑んで、口を開きました。

高杉の話はこうでした。

気が強く賢いある少女アリスは習い事から逃げるついでに逃げる兎を追って穴に落ち、不思議の国に迷い込んでしまいます。そして不思議の国で多くの人々と会いたくさんな出来事に巻き込まれながら最後はちゃんと自分のもと居た世界に帰ってしまいましたという話でした。

話をすべて聞いて、は口を開きました。



「だから、私は ・・・帰らないといけないの?」

「本当の話では」

「・・・?」

「この話は他にも結末がある」

「え?」



高杉はを見つめて微笑みました。



「猫はアリスが気に入ったのさ」

「だから?」

「猫は元の世界へアリスが帰る前にまた森へ呼び込んで、帰らないようにしたんだよ」

「アリスは嫌がらなかったの?」

「アリスは森から出てこようとしなかった。 なぜだと思う?」



は少し考えて、口を開きました。

そして言葉を発すと同時に、鐘のなっていた方向からを探す声が近づいてきました。



「! ど、どうしよう・・・」

「なあ、



慌てるとは別に、落ち着いたまま高杉はを呼び止めます。

を近くに呼び、高杉は柔らかく微笑みました。



「お前がアリスだったら、お前は は、どうする?」

「え、?」



きょとんとするを見ながら高杉は微笑んだまま頭を優しく撫でました。

さっきより近くでを探す野太い声がたくさん聞こえます。

は声がするほうを見て、高杉を見て 微笑みました。



「きっと、猫に言われるままついて行ったと思うわ」

「何も知らない相手なのに?何をされるかわからないのにか?」

「きっと、それでも。 ついていったと思うの」



高杉はにんまり、微笑みました。



「警戒心って言葉、知ってるか?」

「猫は隠れるのが得意だから。私をうまく隠してくれるでしょう?」



高杉の質問には笑っただけで、は言いました。

の質問には高杉は笑っただけでした。でもそれは、頷きながらでした。



高杉は、の手を握りました。



「来い」



は、その手を握り返しました。



可愛い可愛いアリスは不思議の世界に迷い込んでしまいました。

可愛い可愛い少女 アリスは泣きました。

可愛い可愛いある少女がひとり、泣いていました。

そんな可愛い可愛い子を、じっと見つめているものがいました。

むらさき色の衣を纏ったその者は、にんまり、笑って少女に近づきました。

逃げて森にやってきた少女にむらさきの者は言いました。

 こ の ま ま こ こ に 。

少女は迷いませんでした。



追っ手から隠れ逃げながら、は言いました。



「ね、さっきの質問の答えなんだけど」

「あ?」

「どうしてアリスは迷わなかったか、ってやつ」

「ああ、それで? 何でだと思ったんだ」



は微笑みながら言いました。



「アリスも猫が気に入ってたから!」



高杉はにんまり、微笑んで強く手を握りました。



「もうひとつ教えてやるよ、そういうのを、一目惚れって言うんだよ」





(聞こえたのは兎の足音でもなく、双子の戯言でも花や虫の話でもなく、お茶会の誘いでもなく、女王の叫びでもなかった)

(聞こえたのは
らさきの声)














fin











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架空江戸で西洋童話風。

かなり無理があると思うのですが でも、楽しかったです。



だいぶ原作無視なのですが、あくまでも「風」なので怒ってはいけません。←


高杉が間違ったらロリコンになりそうだったのでヒロインを少しでも大人っぽくさせようとするのが一番苦労した点だと言ったら怒られるだろうか。