「俺、好きなやつが出来たんだ」



彼が小さく、でもはっきりと言った。

オレンジ色が彼を染めていた。







無辺世界







「・・おはよ」



顔を上げると土方君が隣の席についていた。

おはよう、と返してすぐに目線を持っていた携帯電話に戻した。向こうも何も言わず、鞄の中から教科書を出していた。

周りが何か言いたげにこちらをちらちらと見る。それが嫌で、逃げるように席を立った。



「隣の席って、ねえ」



結局トイレに逃げ込んで、鏡の前で前髪を直していたらお妙ちゃんが手を洗いながらそう言った。



「自分のクジ運のなさにびっくりした」

ちゃんのクジ運のせいじゃないかも。彼のじゃない?」

「元、彼だよ」

「そういう意味で言ったんじゃないわよ、Heの意味よ。 まあ、あれだけ他の子にヒソヒソされたら過敏になっちゃうわよね」



そう言ってお妙ちゃんはごめんね、と言った。なんだかすごく申し訳なくなって、私もごめんねと言った。

分かれてもうすぐ二週間になろうとしていた。

好きな人が出来た、と告げられて別れて、ただでさえ気まずいクラスメイトになった元彼と、何の嫌がらせかくじ引きで隣の席になって一週間。

私の学校生活の苦しさは増していくばかりだ。

反対側の席がお妙ちゃんじゃなかったら、学校を休んでいたかもしれない。・・いや、来ていただろうけど、隣がお妙ちゃんで本当にありがたい。



「おい、お前」



教室に戻ったら担任が居て、その担任に呼び止められた。



「生徒をお前呼びですか先生」

「ほら」



私の言葉は無視されて、どさりと紙を渡される。

訳がわからず首をかしげると、二枚ずつホッチキスでとめておいといてくれ、と説明された。



「な、なんで私が!」

「俺が決めたからです」

「だからなんで私が」

「俺の作ったあみだクジが決めたんだ」



やっぱり、私はクジ運がないのかもしれない。

ぱちぱちと一人、教室に残ってプリントをホッチキスでとめながらぼんやりとそんなことを思った。

やり始めて一時間弱、プリントは魔法がかかっているかのように減らない。ただひたすらやっているはずなのに、何故減らないのか。

疲れて窓の外を見遣ると、オレンジ色の空が広がっていた。ああ綺麗だなあ、と心の中で呟いた。

ふっと二週間前のことを思い出す。あの時も夕日が綺麗だった。



「俺、好きなやつが出来たんだ」



放課後残ってくれと言われて、教室で待っていたら土方君が来て急にそう、言われた。

え?という私に、目を合わせず、土方君はごめん、と頭を垂れた。



「ごめん、が嫌いになったわけじゃねェ。ただ・・・」

「私より好きな子が、 できたの?」



その質問には答えてくれなかったけど、土方君の表情で答えはわかった。

人を好きになる気持ちは自由だ。私には何も言えない。

ただ、私は土方君が好きで、土方君も私が好き で。

ただそれが、私の一方通行になってしまっただけなのだ。彼はもう、私を見ない。

そう、わかった、と気づいたら口が動いていた。

土方君はもう一度ごめん、と謝って教室を出て行った。私は一人残されて、誰に止められることも慰められることもなく、ただ一人日が落ちきるまで泣いた。

教室中を彩るオレンジが、憎らしくて綺麗で仕方なかった。



「あ、? お前まだ残って・・・・・・、お、おい」



はっと気がついて窓から目を離すと、目の前に沖田君が居た。それから、自分が泣いていたことに気がついた。



「大丈夫かィ?」

「う、うん。ごめんね、」



私がそう謝ると、気にすんな、と笑った。

それから、沖田君は先生に任されたプリントを手伝ってくれた。

二人だとやはり作業スピードは増し、一時間かかっても半分も減らなかったプリントは、三十分でもう残り三分の一にまで減っていた。



「本当にありがとう、これで早く帰れそう」

「ああ、気にすんじゃねェよ」



私がありがとう、と笑うと沖田君も笑った。

ぱちん、とホッチキスをとめながら沖田君が言った。



「泣いてたのって・・・ 土方の野郎のことかィ?」



顔を上げると、少し申し訳なさそうな沖田君が私を見ていた。

私が黙っているのを見て、沖田君はすぐに目をプリントに戻してごめんと謝った。



「悪ィ。嫌な事聞いた」

「ううん、いいの。 その通りだし」

「・・、」

「ばっかだよねぇ、もう振られて二週間経つのに引きずりまくっててさ。本当、自分がこんな引きずる女だったなんて思わなかった、・・」



じんわりと視界が揺れる。ああいけない、また涙が出そうだ。

泣きそうなのがばれないように、下を向いて作業を続行する。沖田君はしばらく黙った後、これは言っていいのか分かんねェんだが、と話し始めた。



「あいつさ、告白したんだ」

「誰に?」

「その・・・・好きな子に」

「 、そう」

「それでさ、振られたんだぜ」

「・・・・・・・・」



黙っている私に、申し訳なさそうな声で、と名前を呼ぶ沖田君の声が聞こえた。

ああ、駄目だ。視界が歪む。下を向いていたら、涙が落ちそうだ。

ああでもどうして、こんなに口が緩むのか。

はっ、と笑った私に、沖田君がどうした、と声をかけた。



「そっか、振られたんだ」

「・・・ああ」

「だからか、   そっかあ」

「? 何がだ?」

「今日ね、別れて初めて向こうから挨拶してきたの。おはようって。 振られたから、寂しかったのかな。だから、私にまた話しかけたのかな」

・・・・・」

「それを喜んだ私って、何なんだろうね。本当、しつこい女だよねえ」

、」

「本当、馬っ鹿みたい・・・・・・ 、」



がたん、と椅子が倒れる音がした。視界が揺れた。肩が狭くなった。

次に顔を上げたときに目の前にあったはずの沖田君の姿はなかった。

変わりに、きつく抱きしめられた腕が苦しかった。



「お、きた く、」

「泣くな、泣くんじゃねェよ・・・ あいつなんかのせいで」

「私、 」

「俺を見ろよ、俺にしろよ、

「沖田、くん、」

「好きだ。 が好きだ、」



沖田君、苦しいよ、と言いたいのに涙が溢れて何も言えなかった。

それをわかっているかの様に、沖田君の腕はすこしだけ力を弱めてくれたけど、私を放してはくれなかった。



「、 ごめん」



教室のドアの所で、唐突に声が聞こえた。

抱きしめられながら見ると、そこには目を丸くした土方君が立っていた。

ちが、と言って離れようとしたけど沖田君は私を離そうとしなかった。

私と目が合ってすぐに、土方君は目をそらして走っていってしまった。



「おき、沖田くん、」

「・・・あいつがそんなに良いのか?」

「え、」

「あいつはお前を泣かしてばっかなのに。俺なら・・俺なら、を泣かせたりしねェのに・・・」



またぎゅうときつく抱きしめられて、私が黙っていると沖田君は小さく私の名前を呼んだ。

涙で滲んだ視界からも部屋中に広がるオレンジが綺麗なことは理解できた。

交わることのない想いのせいなのか、届かない想いのせいなのか、抱きしめられているせいなのか、何が悪いのか何が原因なのかわからないけれど、ただ視界にはあの日と同じようにオレンジ色が部屋を満たしていて。

何が苦しいのかわからないまま、ただただ、私は泣いた。







「っなんで、あいつが・・・」



言い表せないイライラに、たまたま近くにあったゴミ箱を蹴飛ばす。

さっきみた光景が離れない。夕日に反射したの涙が、脳裏に残っていた。

胸が苦しい、あいつが憎い。引き剥がしたかった。



「今更、気づくなんてありえねェだろ・・・」



オレンジ色の空に向かって、舌打ちをした。





このにも辺世





















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ものすごく遅くなりましたが、水城カレンさまリクの「3Z/土方+沖田/死ネタ以外」です。

死ネタ以外ということで、学園恋愛ものを書こう!切なく!とか思ってたら、

もうだれも幸せになれない話になってしまいましたごめんなさい。

最後だけ、土方目線になってます。



水城カレンさま、お気に召さなかったらすいません。

リクエストありがとうございました!



白亜