「あ、っ ・・・・・・土方さん?」
町で声をかけられ振り返ると、自分をある少女がじっと見ていた。
「・・・・・・・・・・・・? お前、えーっと・・・」
誰だっけ、と言うとその少女は ああやっぱり覚えてないかあ、と言って笑う。
最初はただの追い回してくるクチかと思ったら一人だし、しかもこんなまだ少女だ。
少女、といっても総悟と同い年ぐらいだろうか、 大人っぽく見える。
「私、小さいとき真選組でお世話になってたんですよ」
そう言って少女はにっこりと微笑んだ。
脳の奥が疼く。
「・・・小さいとき? 真選組で?」
「ちょうど10歳くらいのときですけど。 一年くらいお世話になったんですけど・・・ 覚えてませんか?」
そう言って少女は首を小さく傾ける。
その仕草に、疼いた脳の奥がはじけた。
「お前・・・・・・ か?」
そう言うと、 は嬉しそうに笑った。
修羅
「いやー、 大きくなったなぁ!」
豪快に笑いながら近藤は数年ぶりに会うの肩をぽんぽんと叩く。
「近藤さんは相変わらず元気ですね。 ちょっと老けました?」
「ひどいなぁ。 でもちゃんがこんなに大きくなったんだ、老けても当然だな」
そう言いながら近藤は隣に座ったを本当の娘のように撫でる。
そしても、娘のようにちょっと照れながら微笑んだ。
「・・・・アレが? ちっちゃかった?」
「沖田さんより1つか2つしか変わらないから沖田さんもちっちゃかったよね」
「うるせィや、山崎。 あれ本当にか?」
「でしょうね。 いやー、美人になったなぁ・・・」
数センチだけ開けられた障子の隙間から、沖田と山崎は近藤と思い出話に花を咲かせるを見ていた。
本当は他にも隊士はいるのだが 二人が陣取ったため後ろで不満そうに指を咥えていた。
「可愛いなー。 ちっちゃいときも可愛かったけど」
「なんか近藤さんに特に懐いてたよな。 後ろずーっとついて回ってた」
「うんうん。沖田さんも仲良かったよね、歳近かったし」
「妹みたいだったしねィ。 でも今はもう本気で好きになりそうだぜ」
「好きといえばさぁ、 は 」
「お前ら邪魔だ、どけ」
障子にへばりつく二人に、吐き捨てるように土方が言う。
二人は振り返り、あからさまに嫌な顔をしてからしぶしぶと障子から離れる。
と、同時に中から障子が開き、は皆がいたことに驚いたのか 小さくわ、と呟いた。
「あ、 土方さん」
「これから近藤さんと話があるんだ。 もう話は終わったか?」
「うん、終わったから大丈夫だよ どうぞ」
そう言っては道を開ける。
土方は軽くお礼を言って中に入る。
「土方さん、髪切ったんだね」
そうが独り言のように言うと、隣にいた沖田が続ける。
「調度、小さいが親の元へ帰った後にばっさり切ったんでさァ」
「邪魔だって言ってたもんね」
「覚えているのかィ?」
「もちろん。 だって真選組での1年間は私にとって一番楽しい1年間だったから」
そう微笑むに、沖田と山崎は笑い返す。
「じゃあ私、他の隊士さん達にも会ってくるね」
がそう言って手を振って廊下を曲がっていった後、沖田と山崎は顔を見合わせて 複雑な表情をした。
「やっぱり ・・・家は嫌いなままなのかな」
「さあねィ。 もうあきらめてるって感じもするけどな」
「江戸にいたのは、 やっぱり・・ 」
山崎がそれ以上言葉を続けないと、沖田はしょうがないだろ と言葉の続きを聞かず言った。
「こんな夜までここに居ていいのかよ?」
今日はとの再会の宴だ、とか局長が言い出して飲みまくり夜も更けてきたころ。
主役のが周りの大人たちの酒飲みについていけず少し外の縁側で休んでいると、土方が声をかけた。
は振り返り、微笑んでまた庭の木に目を戻して言った。
「平気。家には昼間のうちに今日はここに居るって伝えたから」
「よくもまあ許してもらえたな」
「もう安心してるんでしょ。何もかも。決まったから」
そう言って黙るの隣に土方は腰掛ける。
は相変わらず木を見つめたままだった。
「近藤さんから聞いた。江戸に居たのは、 挙式の為らしいな」
「挙式なんていっても、形だけだけどね。 所詮は戦略結婚だよ」
そうは他人事のように笑う。
そう笑うを見て土方が複雑な表情をしていると は言った。
「そんな顔しないで、」
「いや ・・・そうだが」
「今日土方さん見かけたときに、 声かけるか迷ったの」
何でだ、と土方が言うとは笑っただけだった。
そうしては立ち上がって、ずっと見ていた木の傍へ寄る。
そうして木を懐かしそうに触る。
「懐かしいな、 これ木登りした木だよね」
「ああ、お前が総悟につられて登って降りれなくなって大変だった」
「あのときの近藤さんは本当のお父さんみたいだった」
「まあ俺から見たら今もそうだがな」
そうだね、とは微笑む。
そうして 絞ったような声で呟いた。
「やっぱり真選組に遊びに来るんじゃなかったなぁ」
土方が思わず何でだ、という前には言った。
「いい思い出しかここには無いから 辛くなる ・・」
そう言ったが、ひどく小さく見えた。
俺が思わず駆け寄ると は相変わらず微笑んだままだった。
さっきとただ違うのは涙が頬を伝っていることだけだ。
「馬鹿だよね、しょうがないのに。 ・・・わか、ってる のに」
「 、」
「もう家のことは諦めてるから良い、でも ここは、 いつも 好き、で」
はそれ以上言葉に出来なくなったのか、俯いてただ声を出さずに泣いていた。
飲んでいる他の隊士に聞こえてはいけないと思っているのだろう。
ふと、初めてが真選組に来た日のことを思い出す。
「 初めてここにきたときも、お前はここで泣いてたな」
ある名家のお嬢様を、1年間真選組で護衛込みで、預かれといわれたあの日。
まだ小さな少女は、もう自分の運命を分かっているかのように大人びていた。
その少女が、堪え切れなくなって 一人。 ここで泣いていた。
そういうとは顔を上げてちょっと笑った。
「そうだね・・・。 あのね、土方さん」
なんだ、そう返すと同時に自分の唇に何かが触れたのが分かった。
目を見開くと、身を引いたが潤んだ目のまま微笑んでいた。
「私の初恋。 ・・・だったんだよ。」
「 お、 まえ」
「もう叶わないから、辛くても土方さんに声かけたの」
「・・・・ 」
「最初で最後の恋で、初めて 」
さっきみたいな事したんだよ。
そう言っては堪えられなくなったのか 俺にすがる様に抱きついて泣き始めた。
気づかぬうちに腕が動いて 抱きしめるようにの髪に触れる。
短かった髪も、もう大分伸びている。
あんなに小さかったのに、 今はもう。
「───大人、 なったんだな」
「なりたくなんか、なか ったよ・・・ 」
身を離して、泣いているに口付ける。
は少し驚いた顔をしてから苦しそうに微笑んだ。
「もう会わねぇだろうな」
「・・・・、うん」
「俺や、真選組のことは式挙げて江戸から去ったら忘れろ」
「え や、やだ よ」
「忘れろ。 だから、今は好きなだけここで好きなことしたらいいだろ。 泣いても、何でも」
そう言うとは俺に好きだと言って、泣いた。
相変わらず泣いているのには微笑んだ。
「土方さんもいずれ、私を忘れる?」
「さぁな。 分からんな」
「忘れちゃうかもね。今日も私って気づかなかったでしょ?」
「それはお前が変わってたからだ、昔と」
「そりゃあ成長してますからねえ」
「ああ、本当にな」
そう言うともう一度は俺に口付けして言った。
「ね、私大人になった?」
ちょっと口元が上がったのが分かった。
「ああ、 美人になった」
(もう次は本当に誰とも気づかないくらいお前はまた変わっているんだろうな)
(愛してるもいえないまま)
END
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企画サイトさまへ捧げるはずだったのですが残念なことにサイトさまが閉鎖なされたので そのままUPすることに。
EDだった「修羅」のお題でした。
何気に土方さんが初めてで 甘めにしようとか思ってたらなんか違うものが出来上がってしまいました。
とゆうか設定が複雑だったかもしれないとか今更後悔してみたり。
修羅ファンの人で嫌な気がしたらごめんなさい。
D/O/E/Sは素敵ですね。
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