口の中は血の味がしていた。
「何、してんの」
素直に驚いた声が乾いたグラウンドに響いた。
今にも折れそうなの手は、重そうな鞄を握り締めていた。
俺と、俺の前に倒れたやつを交互に見て 怯えた目をしていた。
「・・・高、す ぎ なに、を」
「・・・何って言われても、なァ」
「しん、で 」
「死んではねぇよ」
俺の前に倒れた男を見ながらが本気で俺に聞いたので、俺は思わず笑った。
口の中が切れていたから、喋ったときにまた 血の味がした。
「彼になにを、したの?」
眉を曲げて、目を潤めては俺に聞いた。
俺は同じ言葉を繰り返した。
「何って言われても、なァ」
どうせ言ったって信じやしないくせに。 と、喉まで言いかけてやめた。
は倒れた奴に駆け寄るか迷った素振りを見せて駆け寄らないまま鞄を握り締めた。
そして俺を 少し潤んだ目で、睨んだ。
「どうして?彼は何もしていないでしょう?」
俺は頭の中で繰り返す。
どうせ言ったって信じやしないくせに。
「どうして、こんな・・・ 彼は何も悪くないのに!」
頭の中で繰り返す。 言うな、何も。
───俺さ、正直
男の声が聞こえてきたのは数時間ほど前。
会話が一人だけで進んでいたから、電話だと気付くのはそんなに時間はかからなかった。
別に他人の電話の内容を一つ一つ気にするほど俺も暇じゃないので普通なら無視するが、気になったのはあいつの、だったからだ。
───あいつ、そんなに好きじゃないんだよね
誰が誰を指しているのはすぐ分かった。俺の足も止まった。
じんわり手に汗がにじんだ。
脳の奥が何か疼いたのに俺は少し気付いた。
───でもほら。あれで幸せ、らしいしさ
足が、動いた。でも、言うことは聞かなかった。
───俺だって、実は本命っていうか別に女が・・・高杉、? な、なんだよおまえ っ、
何も考えていなかった。
ただただ、あいつの笑顔が浮かんだ。
「ひど、いよ 高杉・・・どうして・・・?」
ぽたり、と一粒涙を落としては俺を見た。
違う。
「何で・・・、か。 知りたいか?」
口元が上がる。 どうしてだ。
口が勝手に動く。
「残念だったな、泣いたってそいつは何も思ってないんだぜ」
「え?」
「聞いたんだよ。 他に女がいるらしいぜ?」
の顔が一瞬強張る。
目線を落として、言い訳のように首を振った。
「しかも、そっちが本命とかなんだとか」
「っ、 私 は」
「残念だな」
ぽたぽたと俯いて隠れたの顔から涙が落ちる。
違うこんなことを、俺は言いたかったわけじゃない。そう思っても口は動く。
口元は相変わらず上がったまま。
「信じられないってか? ご愁傷様だな、 !」
ぱん、と乾いた音が響いた。
涙を零す瞳が俺を見ていた。 俺を映している目は、歪んでいた。
「・・・最低」
低くが言った。
俺をひっぱたいた手が、微かに震えていた。
「っは、やるじゃねぇか。 そこにぶっ倒れた奴よりいい平手打ちだ、」
「ふざけないで! ねぇ満足した?人の関係裂いて、殴って!」
ぼろぼろと涙がの頬を伝う。
「彼を殴って善い人にでもなったつもり?」
「 善い、ひと?」
「そうよ、可哀想な私の代わりに彼を殴ってさぞかし気分がいいでしょうね! おおきな、お世話だわ 、」
溢れる涙を拭おうともせずはそう言って俺の前で両手に顔をうずめた。
いいひとになんかなりたかったわけじゃなくて。
手が伸びた。 俺の手がの顔を持ち上げる。
涙に濡れて急の出来事に驚いて少し開かれた口が脳内を揺らした。
「 俺は善い人なんかに」
の口がゆっくり動く。
たかすぎ、
「だいきらい、」
俺はお前がただ、俺はお前にただ、
「笑って欲しかっただけなんだよ、 」
無理矢理押し込めた口の中は、生ぬるい温度に苦い苦い 血の味がした。
Right and Worng
(傷つけたくなかったのに、この感情さえ)
(善も悪も所詮血の味なのか)
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2周年記念に受け付けたリクエストのひとつです。
さくらさまに捧げます。
3Z高杉でシリアス、ということでもうそれは個人で走り回って書かせていただきました。 もうシリアスになりすぎてすいません。 あれもうこれ捧げていいのかなみたいになってます。
高杉の片思いっぽい感じでなんかちょっと後から読み返すと嫌われ・・・が・・・混ざってる気もする、のですが・・・ なんだかもうシリアス+暗い+痛い感じになってしまいましたが、 もし少しでもお気に召していただければ嬉しいです。
どうぞこれからも、お暇なときに遊びに来てくださいませ。
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